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baseball2021.03.26

田中将大が“現役バリバリ”で楽天復帰することによって、生まれる効果とは。

大げさではなく、日本の野球界にとってエポックメイキングな出来事ではないか。そんな気がしている。

田中将大投手の楽天入り。

楽天のファンからしたら、これほど嬉しいニュースはちょっとない。なにしろ、マー君である。伝説の胴上げ投手にして、現役バリバリのメジャーリーガーである。わたしの知る楽天ファンは、阪神ファンに比べるといくぶん奥ゆかしい方が多い印象があるが、これだけの超大物が加入したとなれば、「今年は優勝か?」という機運も高まるだろう。

もっとも、今回の移籍を好意的に受け止めているのは楽天ファンだけではないようだ。直接対決の少ないセ・リーグ球団の関係者やファンはもちろん、相当に勝ち星を持っていかれるであろうパ・リーグの球団やファンからも歓迎の声が上がっている。

当然である。こんなことは、かつてなかった。

野茂英雄が海を渡ってからというもの、日本の才能ある野球選手にとって、メジャー・リーグは夢物語ではなく現実的な目標になった。メジャーにいけば、素晴らしい環境がある。素晴らしいライバルたちがいる。そして、素晴らしい報酬も待っている。残念ながら、日本がアメリカを凌駕している点は多くなかった。

そして、日米の格差は拡大の一途を辿った。野茂がメジャー入りの希望を明らかにした際、青筋を立てて激怒した関係者は少なくなかったが、いまや巨人でさえ、相思相愛のはずだった元ドラフト1位のメジャー行きを拒めなくなった。良くも悪くも、メジャー・リーグは日本よりも上という認識が、社会全体に浸透したのである。

浸透しすぎた、ともいえる。

確かにメジャーリーグは素晴らしい。誰だって最高のスタジアム、ゾクゾクするような強敵、自家用ジェットが買えてしまうような環境には憧れる。ただ、アメリカほどではないにせよ、日本だって依然として世界3位の経済大国である。人口にしてもGDPにしても、アメリカの10分の1、100分の1というわけではない。

にも関わらず、アメリカからのオファーが舞い込んだだけで、日本の球団はいともあっさりとギブアップをするようになった。マネーゲームではかなわない、かなうはずがないとの思い込みがそこにはある。

多くの日本人選手が海を渡るようになった一方、中にはアメリカから日本に帰ってくる選手もいるが、その多くは、挑戦の場というよりは最後の場所として日本を選んだように思える。

今回のケースは違う。田中将大は依然としてメジャー・リーグで活躍できる力と権利を持った選手だった。過去日本にやってきた、いわゆる「大物メジャーリーガー」と呼ばれた外国人と比べても、その“バリバリ感”でいったら歴代最高クラスかもしれない。

わたしが何より嬉しいのは、そんな選手に楽天が声をかけた、ということである。

メジャーにはかなわないとの先入観が染みついていれば、たとえヤンキースとの交渉が不調に終わったとしても、そもそも声をかけようという発想自体が出てこない。実際、楽天以外の球団は、どこもオファーをしなかったと聞いている。

いろんな事情はあるにせよ、最初から諦めてしまっていたわけだ。

だが、楽天のフロントは自分たちの発想にリミッターを設けなかった。「どうせダメだろう」との前提にたつのではなく、「欲しいから当たってみよう」と動いた。

イニエスタをバルセロナから連れてきたのと同じ発想である。これはもう、さすがというしかない。

それでも、肝心の日本球界に魅力がなければ、どれほどの好条件を提示されたところでマー君が首をタテに振ることはなかっただろう。

打たれる危険性をかいくぐることに快楽を覚えてきた超一流のピッチャーにとって、抑えられることがわかりきった打者との対決は退屈でしかない。だが、メジャーを抑えてきたピッチャーといえども、いまのソフトバンク打線を抑えるのは容易なことではない。

だから力を貸してくれ──わたしだったらそう言ってマー君を口説くし、実際、日本球界に関心を持ち続けたという彼にとっても、楽天を頂点に導くのが素晴らしく困難で魅力的なミッションだと映ったからこそ、オファーを受け入れたのではないかと思っている。

なので、個人的な願望としては、獅子奮迅の活躍をしつつ、それでもソフトバンクの牙城は崩せなかったといのうが、1年目の最高のシナリオなのかな、とも思う。

田中将大を持ってしても、ソフトバンクは抑えられなかったという結果が出れば、日本を見るアメリカの目が変わる。すべてにおいてアメリカにはかなわないと思い込んでしまっている日本人の考えも変わる。

物事が一気に動き出しそうな気がする。

唯一一点、納得できないというか不可思議なのは、イニエスタといい田中将大といい、選手の獲得についてはワールドクラスの動きを見せている楽天グループが、監督選びに関してはおよそ世界の強豪ではありえない人選をしているということ。

優勝を狙うチームの監督を、監督経験のない人材に任せる?謎である。

ごく一部の天才の除き、監督という職業に求められる第一の要素は「経験」だと思うから。

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