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baseball2021.04.15

内川聖一と村上宗隆の共闘でヤクルトスワローズは全盛期を迎えるのか。

すでに新幹線は開通していたし、開通したて、という雰囲気でもなかったから、まだ10年は経っていないということになる。

九州出身の後輩が結婚する、結婚式をあげるということで、鹿児島まで行った。

焼酎文化圏であるにも関わらず、極上の日本酒が多数用意されていたとか、おかげでスピーチをする前にすっかり出来上がってしまい、何をしゃべったのかまるで覚えていないとか、まあいろいろと思い出はあるのだが、何といっても忘れられないのは、式の後半、新婦によるスピーチだった。新郎とのなれそめについて、彼女はこう言ったのだ。

「九州の人なので、信用できると思いました」

会場は爆笑に包まれたが、わたしは唖然だった。九州の人間だから信用できる?ということはつまり、本州の人間は信用できないってこと? 俺って、信用できない人間ってこと?で、それってみんなが爆笑できてしまうほどの共通認識?

不愉快、とか傷ついた、というわけではない。沖縄で仕事をしていた時は何回か「だからナイチャー(内地人)は」と言われたことがあったし、よりシリアスな人種差別はヨーロッパでうんざりするほど経験してきた。

ただ、大分出身だという20代新婦の口から「九州の人なので」という言葉が出てきたのには、本当に驚いた。九州出身者の絆は固そうだとは思っていたが、まさか、これほどとは。

数年後、大阪のスポーツ新聞社でトラ番として働いていた後輩は、あっさりと転職を決意した。大阪のスポーツ新聞でトラ番を任せられるということは、社としても相当に期待していることの表れのはずなのだが、彼にとってはどうでもいいことだった。

「いやあ、どうしてもホークスを取材したかったんで」

大阪のスポーツ新聞社を退職した彼の次の職場は、九州の地方新聞社だった。

というわけで、その後輩に聞いてみた。

「なんで内川ってホークスから出たの?」

彼がベイスターズからホークスへの移籍を決めたのは、後輩が結婚式をあげたのとほぼ同じ時期だった。なので、わたしの中では、改めて九州出身者の故郷に対する思いの深さに感心させられるとともに、ホークスが内川聖一という選手にとっての終の住処になるんだろうな、という思いがあった。

「う~ん、工藤監督との不仲っすかね」

どれほど人格、能力に優れた監督であっても、使ってもらえない選手からすれば最悪の監督である。昨年、内川はどんなに2軍で結果を出しても、1軍からのお呼びはかからなかった。功労者としての自負もあるであろう内川が、複雑な思いを抱くのは何ら不思議なことではない。実際、ファンやメディアの中でも、工藤監督の内川に対する扱いが乱暴すぎるのでは、という一定数の声はあったという。

ただ、これは阪神と鳥谷との関係についても言えることなのだが、功労者に対する雑な、あるいは乱暴な対処は、時として選手寿命を引き延ばすことがある。俺はまだやれるのに、と込み上げる怒りが、消えかけた蝋燭の炎に最後の力を与えるのだ。


とにもかくにも、内川はホークスを去り、再びセ・リーグに活躍の場を求めることになった。真っ先に獲得へ手をあげたヤクルトが、彼にとって3つ目の所属チームとなった。

すでに2000本安打を達成し、勝負強さにも定評がある内川に対する高津監督の期待は大きかった。開幕の阪神3連戦、昨年1軍で1打席も経験していない38歳は、クリーンナップの一角としてスタメンに名を連ねた。

阪神ファンとして見たヤクルトの内川聖一は──依然として健在だった。

おそらく、長打力は落ちているのだろう。一発という怖さがないためか、第三戦に先発した阪神のガンケルは、4番の村上を歩かせて内川勝負、という形を2度とり、2度とも見事成功した。

それでも、開幕3連戦を通じて、完全に態勢を崩されながらも巧みなバットコントロールでボールを運ぶ技術が、まったく衰えてはいないことはよくわかった。周囲の調子があがってくれば、もっともっとイヤな存在になることは確実だった。

まさか、コロナ・ウィルスに邪魔をされようとは。

おそらく、本人としても切歯扼腕の思いだろうが、ただ、復帰がなったころのヤクルトは、開幕で阪神に3連敗したころとは違うチームになっているはずだ。

彼が戻ってくるころ、それはつまり、開幕当初はいなかった助っ人たちが顔を揃えているということでもある。回りに一発のある助っ人がいる中に、内川という曲者が一枚加わる。対戦相手からすれば、かなりやっかいに感じられることだろう。

もっとも、阪神ファンたるわたしが一番心配しているのは、内川が打つか打たないか、ではない。ヤクルト・ファンの方には申し訳ないが、今年は乳酸菌 シロタ株を最後まで虎の栄養分にしていくつもりでいる。

怖いのは、内川が周囲にもたらす効果、である。後輩が言っていた。

「ああ、そういえばずいぶん前から内川さん、言ってましたよ。アイツは凄い。あの若さであれだけのバッティングができるのはちょっと普通じゃないって。柳田を超えるかもしれないって」

ヤクルトには、村上がいる。世代ナンバーワンどころか、球界ナンバーワンになる可能性も十分な大砲がいる。すでに飛距離の点では文句なし。数年前は壊滅的だった打率の方も、はや一流といえるレベルになってきた。

そこに、内川の知恵と経験が伝授されたら──。

大分出身のレジェンドのエッセンスを、熊本出身の新進気鋭が全面的に受け入れるようなことがあったりしたら──。

九州出身者には、九州出身者にしかわからない絆や親近感があるらしい。もちろん、すべての九州人に当てはまるわけではないだろうから、願わくば、内川と村上の間に見えない絆が生まれたりしないことを──と祈る阪神ファンのわたしである。

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