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baseball2021.06.02

佐藤輝明の阪神タイガース1年目の予想成績は、打率2割9分、ホームラン42本

おそらくは日本中の阪神ファンが、背番号8の躍動を目にするたび、うっとりとため息をついているはずである。

4球団による争奪戦を勝ち抜いて獲得した逸材である。巨人、オリックスに加え、あの絶対戦力を誇るソフトバンクまでが欲しがった大砲である。関西学生野球リーグの通算本塁打記録を更新したオトコである。ある程度の活躍をしてくれるであろうことは、十分に予想できた。

だが、まさかこれほどとは──。

社運をすべて阪神にフルベットしていることで知られるスポーツ新聞社に、かれこれ20年近い付き合いとなる友人がいる。サッカー好きでもある彼は、昨年1年間、アマチュア野球の担当として佐藤輝明に密着していた。ここでは仮に、M君としておく。

「う~ん、2割8分、20本くらいは行くんちゃうかなとは思ってましたけどね」

話を聞きながら、ちょっとおかしくなってしまった。シーズンを通じて2割8分の打率を残すのは簡単なことではないし、こちらが電話をかけた時点で、佐藤の本塁打はまだ10本でしかなかった。にも関わらず、M君は明らかに自分の予想が大きく外れる、それも上に外れることを前提で話をしている。

そして、聞いているこちらも、それを当たり前のように受け入れている。

20本はおろか、40本、いやいや、ひょっとしたらバース様の記録に並ぶんちゃうか、ぐらいな感じで受け入れている。(そっか、担当していた人間からしてもビックリなわけね)

そう思ったわたしは、およそルーキーとは思えない活躍を目の当たりにするうち、大きくなってきていた疑問もぶつけてみた。

「あ、それはもう、コロナのせいですね。コロナのせいで4年春のリーグ戦が中止になった。そのせいやと思います」

なるほど! と得心がいった。

わたしの中で膨らんできていた疑問は、「なんでこんな凄いバッターが、たったの1本しかリーグ戦の本塁打記録を更新できなかったんだろ」ということだった。これまでの記録保持者が巨人などで活躍した二岡智宏さんだったと聞けばなおさらである。

二岡さんはもちろん素晴らしいバッターだったが、プロ入りしてからの彼にスラッガーとしてのイメージはないし、そんな選手が持っていた記録をたった1本だけ更新しただけのルーキーに、果たしてどれだけ期待していいものなのかがわからなかったのだ。

だが、春のリーグ戦がまるまる中止となり、4年になってからの試合数が二岡さんの半分程度だったと聞けば、納得もいく。つまり、失礼ながら二岡さんの数段上を行くスラッガーだったわけだ。

一つの疑問が消えれば、また一つの疑問が出てくるのが世の常というもの。これまた、おそらくは日本中の阪神ファンが抱いているであろう疑問を、わたしはぶつけた。

「いや、実は阪神も、ですし、いくつかの球団もチェックはしてたらしいんですよ。仁川学院にえらい飛ばすヤツがおるぞって。上位での指名はなかったでしょうけど、下位やったらどこか指名してたんちゃいますかね」

聞けば、佐藤の母校・仁川学院は、それこそコールド負けがニュースにならない学校だったという。有体にいってしまえば、だいぶ弱かった。つまり、わたしが抱いた疑問、「なぜこれほどの選手が高校時代は無名だったのか」に対する答は、「学校自体が野球の世界ではまったく無名だったというのが大きいが、佐藤個人は、実は知る人ぞ知る存在だった」ということだった。

ちなみに、彼が近畿大学に進んだのは野球部の恩師の母校だったというのが大きかったそうで、入学が決まった時点での彼は、それほど、というか、ほとんど、大学側から期待される存在ではなかったという。

入学が決まった時点、では。

関西学生野球連盟の春季リーグ戦は、通常、4月上旬から始まる。学校によってはまだ入学式も行なわれていない時期の試合に、佐藤はいきなり先発メンバーとして抜擢された。5番、レフトでの出場だった。

短期大学に籍を置く、野球推薦で入ってきたわけではない学生が、いきなり、名門大学野球部のレギュラーとして抜擢されてしまったのである。

それから4年、近畿大学の関係者を驚愕させたのと同じ、いや、それ以上のことを、22歳になった佐藤輝明はやっている。

打率2割9分、ホームラン42本。

ひょっとしたら、もしかしたら、いやいや、かなりの確率で、それぐらいのことをやってしまうのではないか。やれてしまうのではないか。阪神だけでなく、日本球界にとっての宝となってくれるのではないか──そんな妄想を抱きつつあるわたしは、怖くて、聞くに聞けなかった質問を最後にM君にぶつけてみた。いや、知らんかったらええねんけどな、と心の中でつぶやきながら。

返ってきたのは、最悪の答だった。

「あ、大好きですよ。高校時代からずっと見てたみたいですから」

う、ううう……そうなのか、ということは、あと何年かの命なのか。いずれは悲しい別れのときが来てしまうのか。

心の広い日ハムファン、あるいは野球ファンと違って、わたしは阪神ファンである。そうでない方もいると思うが、わたしの場合、極めて心の狭い阪神ファンである。友人だった弁護士に呪いをかけようとした男である。

その友人が井川慶の代理人でもあったがために──。

蛇足ながら、付け加えておこう。わたしは最後、M君にこう聞いたのだ。

「佐藤君って、メジャー・リーグに興味あんの?」

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