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baseball2021.08.12

阪神タイガースが好調だった、ペナントレース前半戦を振り返る

個人的には大満足である。

48勝33敗3分けで、2位巨人に2ゲーム差をつけての首位。結構な期待をしていたルーキー佐藤輝明は結構どころでは済まない大物ぶりを見せ、正直言えばあまり期待していなかった中野拓夢、伊藤将司の両ルーキーは期待を大幅に上回る貢献をしてくれた。

これで後半戦に入れば、期待の左腕・高橋遥人も帰ってくる。一時帰国でリフレッシュした外国人たちは、またシーズン開幕直後のような働きをしてくれるはず。オリンピックにいった3人に蓄積疲労によるトラブルが起きないかは心配だが、ともあれ、最後まで優勝争いをしてくれるのは間違いないと思っている。

昨年は最終的に2位に滑り込んだとはいえ、クライマックス・シリーズが実施されないことがわかっていての2位は、実施される年の2位とは若干意味合いが違う。なので、セ・リーグで2番目に強かったというよりは、優勝できなかった5チームのうちの一つ、というとらえ方を個人的にはしていた。

今年は違う。首位にいるから、ではなく、先発投手陣の防御率や野手が残した打率、本塁打、盗塁などの数字をみても、「優勝できなかった5チームのうちの一つ」という括りからは完全に脱出した印象がある。

もう少し減るのでは、と思っていた失策数があまり減っていないのは予想外だが、そのうちの13は、ルーキーにして非常に攻撃的な守りを見せている中野が記録してしまったもの。いずれ阪神のストロング・ポイントに育てるための投資だと思えば、案外腹も立たない。

ただ、これはあくまでも個人的な印象であって、阪神ファンの中には、今年の戦いぶりにまるで満足していない人たちもいるようだ。そんな層からのターゲットにされてしまった感があるのが、大山悠輔と矢野輝弘監督である。

大山に関しては、正直、わたしもイライラしてしまうところはあった。というか、基本的には心配性にして、かつ常に誰かに対して毒を吐いていないと落ち着かない性癖が、勝手に大山をロックオンしてしまったのである。

佐藤が三振する。ルーキーだから仕方がない、と思う。マルテとサンズは得点圏に強い。下位を打つ梅野隆太郎だって、中野だって、チャンスの場面ではいい仕事をする。だが、ここまでの大山は、佐藤ほどにホームランを打つわけでも、両外国人のように得点圏打率が高いわけでもなかった。勢い、怒りの矛先は彼に向きがちになった。

大山にとっては辛い、しんどい日々だったとは思う。ただ、彼がファンからの罵声を一身に背負ったことで、他の選手たちはずいぶんと救われた面があったに違いない。さらにいうなら、ここで経験した試練は、今後、大山という選手の気持ちをより強く、揺れにくいものに成長させるはずで、きっと、後半戦は未曾有の大爆発をしてくれるものだと信じて疑わない、いや、疑いたくないわたしである。

もっとも、大山が受けたバッシングも、矢野監督が浴びたものに比べればまだまだ可愛く思えてくる。どうも、一部のファンの間では、「勝つのは選手のおかげ。負けるのは矢野のせい」といった見方がすっかり定着してしまったらしい。実際、監督の契約延長が発表された際は、歓迎の声よりも疑心暗鬼な声の方が大きかった印象がある。

目下阪神が下位に沈んでいる、というのであれば、これはわかる。が、チームを首位に導き、生え抜きの選手を多く抜擢し、先を見据えての若返りにも成功しつつあることを考えれば、この意外な不人気、阪神の歴史の中でも珍しいことと言えるかもしれない。

もちろん、矢野監督を批判する人にはそれぞれの理由があるのだろうが、わたしが一番よく目にするのは「監督らしくない」といった批判である。

選手をあだ名で呼ぶのは監督らしくない。たかが1試合勝ったぐらいで涙をこぼすのは監督らしくない。選手と一緒になってはしゃいでいるのも監督らしくない──。

そうした意見を否定しようとはまったく思わない。ただ、シーズン中にインタビューで肉声を聞かせてもらった人間の一人として、言えることがある。

らしくない監督像こそ、矢野輝弘が目指した監督像である、と。

「ぼくはどうやっても星野さんにはなれないし、野村さんにもなれない。だったらどうするか。先生みたいな存在の監督になろうと」

彼が選手たちをあだ名で呼ぶのは、かつては厳格に存在した上下関係を、少しでも水平に近いものに近づけたかったから、だという。

「先生が一人の生徒だけをあだ名で呼んで、他の生徒を名字で呼んでたら、なんやあの先生、あいつばっかヒイキして……ってことになるじゃないですか。そうはならないよう、気をつけて選手には声をかけるようにしてます」

9回裏に3点差を逆転した7月12日のベイスターズ戦後の涙も物議をかもした。ただ、人によっては思い描く監督像から大きくかけ離れていたかもしれないあの涙も、熱血教師、泣き虫先生が流したものだと思えば、わたしには何の違和感もなかった。しかも、サヨナラのタイムリーを放ったのは、長く不振に喘いでいた大山だったのだ。

というわけで、監督らしくない監督であることに関しては、「大事なのは勝ってることだから」とあまり気にしないわたしではある。ただ、7月6日、ヤクルト戦で起きたトラブルについては、いささか思うところはある。

テレビをみていただけではわからなかったが、2塁走者の近本がサイン盗みを疑われると、激昂した矢野監督がヤクルトの村上宗隆に向かって「やってへんわ、ボケ」などと怒声を浴びせたという。本当にそんな暴言があったかどうか、またそれが矢野監督のものなのか、井上一樹コーチのものかはともかく、矢野監督が激昂していたのは確かだった。

監督としてはもちろん、教師としてはなおさら、あれはダメ。だからけしからん、監督を辞めるべきだ、などとは1ミリも思わないけれど、褒められた態度でなかったことは間違いない。

あのとき何があったのか。いまのところ、阪神球団も矢野監督自身も、はっきりしたことは発表していない。ただ、なかなかに後味の悪い一件ではあっただけに、シーズンが終わった時にでも、矢野監督に直接話を聞きたいとは思っている。

願わくば、オールスターの期間中、矢野監督が村上と直接言葉を交わし、誤解を解くなり、謝罪を入れるといったことが済んでいますように。で、後半戦は後顧の憂いなく、ヤクルトを始めとする5球団をボコボコにして、16年ぶりの優勝、36年ぶりの日本一に向けて突っ走りますように。

折しも、パ・リーグではオリックスが首位を走っている。前回、東京オリンピックが行なわれた年の日本シリーズは、阪神対南海だった。

というわけで、今年は阪神対オリックスの日本シリーズでしょ、と信じてやまない21年7月下旬現在のわたしである。

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