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baseball2022.04.08

山本由伸(オリックス・バファローズ)は、メジャーリーグが一番欲しがっている日本人投手

隣の芝生が青く見えるものだということは知っている。阪神だって、ピッチャーの育成に関してはわりかし上手くやっている。青柳もそう。秋山もそう。ドラフトの下位で指名した選手がローテの軸を担っている。

なので、ひょっとしたら無い物ねだりなのかもしれないという自覚はある。あるのだが、やっぱりオリックスって上手いよなと思ってしまう自分もいる。

そう思ってしまう最大の原因が、山本由伸である。

青柳は頑張っている。秋山の安定感は素晴らしい。ただ、彼らは基本的には技巧派の部類に入る。少なくとも、剛球投手というタイプではない。

ところが、16年のドラフトで4順目まで残っていた山本は、それもオリックスの担当スカウトが渋る上司を必死になって説得して何とか4位で指名することができたという山本は、160km/h近い速球、150km/h近いカットボールを武器とする化け物レベルのピッチャーとなった。年俸は優に3億円を超え、いま、メジャーリーグが一番欲しがっている日本人投手という声もある。

オリックスって、いや、パ・リーグのチームって、原石を磨き上げるのがどうしてこんなに上手いのかと思ってしまうのは、わたしだけだろうか。今年の秋、もし噂どおりにソフトバンクの千賀が海を渡ることになれば、育成ドラフトからメジャーリーガーというシンデレラ・ストーリーが完成することになるが、こういうケース、なかなかセ・リーグからは出てきそうにない。

たぶん、それには理由がある。

阪神ファンとしては、オリックスからやってきた西勇輝にヒントを見る。

わたしのような野球素人でも、投球の際、ピッチャーはできるだけ身体を開かずに、要はユニフォームのチーム名をギリギリまでバッターに見せないように投げなければならない、というのは常識として知っていた。利き腕とは反対の手で壁を作り、捻る力を一気に解放させるため、とも聞いてきた。

ところが、西の投球フォームときたら、踏み出した左足が着地する前にチーム名が見えてしまっている。言ってみれば開きっぱなし、セオリー無視しっぱなしのフォームである。

西が高校時代に日本中を席巻した超大物ルーキーだというのであればまだしも、彼はまったく無名の、ドラフト3位で入ってきた選手だった。賭けてもいいが、彼が入団したのが阪神だとしたら、投手コーチはもちろんのこと、評論家たちからも徹底的に修正のメスが入れられたはずだ。

そして、ひょっとしたら壊れてしまっていた。

本来、フォームなりスタイルなどというものは、結果を出すための手段でしかない。ただ、セオリーに則ったスタイルやフォームは成功した例が多いため、まだ結果の出ていない無名の選手たちには、どうしてもオーソドックスなやり方が強いられがちになる。

人気球団の場合は、特に。

だが、幸いなことに西は自分のやりたい投げ方を貫くことができた。貫くことを許したのは、オリックスという環境だった。



ちなみに、山本と同期でオリックスにドラフト1位入団した山岡は、公称で身長172センチ、実際に会ってみるともう少し小柄からと思うぐらいの体格だが、本人曰く、投球の際のリリースポイントは、身長195センチあった同僚のディクソンとほぼ同じ高さだったという。

「母親の影響で、子供のころからバドミントンをやってたんですけど、完全にその影響ですね。スマッシュの感覚です」

なるほど、改めて彼の投球フォームを見直してみると、異様にすら思えるほどリリースポイントが高い。そして、肘の伸ばし方などは、まさしくバドミントンのスマッシュである。これまた、セオリーを重視する方からすれば、真っ先に手をつけたくなるポイントだったはずだ。

だが、山岡も自分のスタイルを貫くことが許された。山本のフォームもまた、独特である。トレーニング方法もまた、独特である。

投球の際、彼は踏み出した左足を強く突っ張らせる。左膝にググッと重心を移動させていくのではなく、足首から足の付け根までをまるで1本の堅い棒であるかのように扱う。トレーニングの際は投擲競技のハンマーや槍に似た用具を取り入れることもあると聞く。

一方で、もはやほとんどのアスリートにとって常識というか、必須要項になった感のあるウェイトトレーニングは一切行なわないという。

まだ結果を出していない高卒の選手に、それが許された。くどいようだが、貫いた山本も、貫かせた球団もあっぱれというしかない。

ちなみに、高校時代の山本は、れいめいの太田龍、九産大九産の梅野慎吾、そして福岡大大濠の浜地真澄らとともに「九州四天王」と呼ばれていた。全員がプロに進み、22年現在、全員が若手の有望株として期待されているが、現時点での実績では山本が群を抜いている。

とはいえ、彼らはまだ23歳である。

追う側になった他の3人からすれば、こんなにもわかりやすい目標はない。高校時代から山本が雲の上の存在だったというのであれば話はまた変わってくるが、少なくとも、ドラフトにかかる時点での評価に大差はなかった。山本はオリックスの4位指名だったが、梅野は同じ年のドラフト3位でヤクルト、浜地は4位で阪神から指名されている。

現時点で、プロ野球界には98年生まれを評する言葉、たとえば「松坂世代」「ハンカチ世代」といった言葉は生まれていない。だが、今後も山本が突っ走り、高校時代のライバルが追いすがるような形になれば、「九州四天王」という言葉が再び脚光を浴びる日が来るかもしれない。

阪神ファンとしては、浜地がその中心であってほしいが、客観的に見れば、おそらく主役は山本である。

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