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baseball2022.05.07

鈴木誠也と大谷翔平の対決は、アメリカ全土を巻き込むビッグイベントになる

巨人時代の松井秀喜は、何十年に一度しか出現しない、希代の長距離砲だった。02年に記録した本塁打数は「50」。そんじょそこらのバッターに残せる数字ではない。

だが、メジャーに移籍してからの松井は、「長打を期待される選手」というよりは「長打も期待できる選手」だった。巨人時代の10年で打ったホームランが332本だったのに対し、メジャーでの10年では175本。ほぼ半減に近い数字である。

松井に限った話ではない。日本ではスラッガーとして鳴らした選手が、アメリカではまったく違った成績になってしまうというのは珍しい話ではない。球場の広さやボールの質、何より対峙するピッチャーの違いなど、様々な要因があるのだろうが、いつのまにか、日本の長距離砲がそのままメジャーで同じ役割を果たすのは難しい、という思い込みがわたしには生まれていた。

だから、鈴木誠也には驚かされている。

日本での松井や筒香嘉智を比較した場合、鈴木の長打力がやや落ちるのは数字の上でもはっきりと現れている。広島時代の9年間で打った本塁打は182本。松井はもちろん、在籍10年で、うち3年間はほぼ控えだった筒香の205本と比べても見劣りはする。

だが、シカゴ・カブスに活躍の舞台を移してからも、鈴木は広島時代と変わらない数字を残し、かつ、変わらない勝負強さを見せている。阪神ファンに例えられるほど、というか、下手をすると阪神ファンよりも熱狂的なカブスのファンも、いまのところ日本からやってきた新たな才能を全面的に支持しているようだ。

もちろん、現時点での成績がこのまま継続されていく保証などどこにもない。

08年、中日からカブスに移籍した福留孝介は、デビュー戦で起死回生の同点3ランを放ち、いきなりファンの心をつかんだ。4月の月間打率は3割を優に超え、普段は手厳しいシカゴのメディアが「福留がカブスを変えた」と激賞したほどだった。

だが、躍進と蜜月関係は長く続かなかった。徹底したインコースへの速球攻めに対処しきれなかった福留は急速に打率を落とし、シーズンが終わるころにはファンからも不良債権呼ばわりされるまでになってしまった。

鈴木が同じ運命を辿らないという保証は、残念ながら、どこにもない。

ただ、そうはならないのではないか、という気持ちもわたしにはある。

理由は、日本のピッチャーのレベルアップである。

松井や福留が海を渡った時代、日本では140キロ台後半を投げるピッチャーが速球派と呼ばれていた。少なくとも、阪神ファンのわたしにとっての井川慶は、まごうことなき剛球投手だった。

いまは違う。さしたる知名度も持っていない中継ぎの投手でさえ、150キロを超える速球を投げ込んでくるのは珍しいことではない。160キロでさえ、もはやニュースではなくなった。

つまり、日本のバッターは、以前に比べれば確実に速球に対する経験値を高めている。150キロ台半ばの速球でインコースを攻められるのは、誰にとっても当たり前のことになった。

もちろん、この視点には弱点もあって、「ならば筒香はどうなのだ」と突っ込まれると、正直、言葉に詰まる部分はある。あえて反論をするならば、「とはいっても、依然としてメジャーと日本のピッチャーの質には違いがあり、そこにアジャストできる選手とできない選手がいるのは当然のこと」ということになるか。

いずれにせよ、日本では「長打も期待できる打者」として活躍してきた鈴木が、メジャーに移籍してからも同様の成績を残すようなことがあれば、しばらくピッチャー偏重が続いてきたMLBの日本人選手観に、また少し変化が生まれるかもしれない。

個人的に楽しみにしているのは、アメリカンリーグに所属する大谷翔平との対決である。

以前に比べると、メジャーでの日本人対決に対する注目度は低くなったが、大谷と鈴木が対決するとなれば話は変わってくる。全国的にはほぼ無名ながら、日本を代表するバッターに成長した男と、常にスポットライトを浴び続け、いまや生きながらにして歴史に残る存在となりつつある男。広島時代の鈴木は、藤浪晋太郎との対決を楽しみにしていた印象があるが、ならば、同じく同級生でもある大谷との対戦は、大いに胸高まるところがあるのではないか。

ファンからすれば、胸高まる、どころの騒ぎではない。

しかも、天の配剤というべきか、リーグの違う2人の直接対決は、今年の場合、ほぼほぼ実現しようにない。インターリーグでの対戦が組まれていない以上、どちらもがワールドシリーズに名乗りをあげなければならないのだが、それが現実のものとなる可能性は、今シーズンの阪神がここから巻き返して優勝する以上に低い……と思う。

つまり、お楽しみはたっぷりと先送りされる。

エンジェルスとカブスがそれぞれのリーグを勝ち上がるか、大谷と鈴木、どちらかがチームを動き同一リーグでの対戦が実現するか。いずれにせよ、両者がメジャーリーグのボールパークで対峙する日は、いつか必ず訪れるはずだとわたしは思う。

来るべきその日まで、大谷と鈴木が22年5月現在と同じ輝きを放ち続けていたとしたら、その対決は日本のみならず、アメリカ全土を巻き込むビッグイベントになるはずだ。

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