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baseball2022.06.24

交流戦を12勝6敗で終えた阪神タイガースは、後半戦でどこまで巻き返せるのか?

交流戦の最中、ラジオの対談番組のゲストとして鳥谷敬さんにお越しいただいた。

野球人生で一番印象に残っていること。伝説となったWBC台湾戦での盗塁は、なぜ敢行することができたのか。阪神との契約が切れることを伝えられた時の気持ち──会ったらぜひ聞いてみたいと思っていたことを片っ端からぶつけることができた、個人的にはものすごく充実した時間だった。

で、最後にこう聞いた。

「阪神、どこまで巻き返すと思います?」

収録が行なわれたのは6月7日、5連勝で一気に借金を減らしてはいたが、まだ阪神は余裕の最下位だった。にもかかわらず、鳥谷さんは事も無げに言い切ったのだ。
「3位までは行くんじゃないっすかね」

鳥谷さん曰く、これだけ投手陣が安定している以上、この先も大崩れは考えにくい。もともとポテンシャルのあるチームでもあり、普通にやっていけばクライマックスの権利は獲れるのでは──とのことだった。

というわけで、もはや3位以上は確定、あとはその先どれだけ上積みができるかを考えるようになったわたしである。

実際、交流戦を12勝6敗というまずまず……というか、上出来の成績で乗り切ったことで、「20」に届かんとする勢いだった借金は「6」にまで減り、セ・リーグ順位表を見れば眼下に2チームもいる有り様になった。リーグ再開後の3連戦を勝ち越したことで順位はさらに一つ上がり、2位巨人の背中もはっきり見えてきた(ヤクルトのことは、ひとまず忘れる)。

ただ、相変わらず矢野監督に対する風当たりは厳しい。

いや、そのこと自体をどうこういうつもりはない。成績がでなければ叩かれるのは当たり前のこと。まして、シーズン序盤の阪神は、歴史的な大失態を演じてしまっている。その監督が非難されないとしたら、そちらの方が心配になってくる。

だが、批判の原因の一つになっている「シーズン前の辞任発表」については、ちょっと納得しかねるところがある。

前代未聞だ、というのはその通り。発表がチームに何らかのマイナスをもたらしたのも事実だろう。とはいえ、矢野監督が起こりうるネガティブな反応をまったく予想していなかったはずはないし、彼は彼なりに、マイナスを超えるプラスを見込んでの決断だったとわたしは思う。

昨年夏、雑誌Numberの取材で話を聞かせてもらった際、矢野監督は選手との距離感について「学生と先生みたいな関係でいたい」と口にしていた。そうした関係が築けているという自負もあったに違いない。ならば、シーズン前の発表もわからないではない。高校野球で、今年限りで勇退する監督のために選手が発奮するというのは、少しも珍しいことではないからだ。

いや、高校野球とプロ野球は違う、今シーズン限りでの退任が決まった監督の元ではプロの選手は頑張れない、という方たちには、「ならば11年のドラゴンズをどう思いますか?」とお伺いしたい。

ご記憶の方もいらっしゃるだろうが、このシーズンの途中、中日のフロントは早々に落合監督と翌年の契約を結ばないことを発表した。すると、8月3日の段階で首位ヤクルトに10ゲーム差をつけられていたドラゴンズは、最終的に2.5ゲーム差をつけてセ・リーグのペナントを勝ち取った。フロントの決断がチームの団結力を産み出した、などと美談で片づけるつもりはないが、少なくとも、来年のなくなった監督の元でも、プロの選手たちが力を発揮することはできるという一つの例にはなる。

岡田元監督にやらせるべきだ、平田2軍監督が適任だという声についても、諸手を挙げて賛成する気にはなれない。

確かに岡田監督は05年に阪神を優勝に導いている。だが、彼が任されたのは、いまは亡き星野監督のもと、圧倒的な強さでセ・リーグを制した直後のチームだった。戦力的にも充実し、選手の年俸総額が12球団トップクラスだったチームを、就任初年度の岡田監督は連覇に導くところか、Aクラスを確保させることもできなかった。

一方、矢野監督が就任した前年度、阪神は最下位だった。生え抜きの育成に取り組んでいた時期ということもあり、選手たちの年俸もずいぶんと小ぶりになっていた。少なくとも、金本がいて伊良部がいて下柳がいて片岡がいて……という04年の阪神とは比べられないレベルだった。

そんなチームを初年度からAクラスに導き、球団史上初めて、就任から前年度Aクラスを確保した矢野監督を無能呼ばわりする方々は、一体どれだけ素晴らしい監督をご覧になられてきたというのだろう。

いや、岡田さんにやらせてもいい。平田2軍監督?面白いかもしれないな、とは思う。だが、矢野監督が無能だから、監督を替えれば何とかなるとでも言わんばかりの声には、正直、失笑を禁じ得ない。

もちろん、矢野監督にも欠点はあるし、昨年、ヤクルト村上との間で起きたいざこざとその後の対処には、心底ガッカリさせられた。高校の先生のような監督像を目指しているのであれば、なおさらやってはいけないことだったとも思う。4月14日、巨人に勝って連敗を6で止めた後の会見で訳のわからん色紙を持ち出してきた時には、「こらもうあかん!」と絶望的な気分にもなった。

だが、どうやら危機は脱した。チームも、矢野監督も、どん底には別れを告げた。この先、また雲行きが怪しくなることもあるだろうが、開幕からの1勝15敗を思えば、受ける重圧など物の数ではないはずだ。

というわけで、いまではすっかりクライマックスに行く気満々で、なんならもうちょい上というか、てっぺん狙っちゃってもいいかも、などと浮かれ気味のわたしである。10ゲーム差をひっくり返して2.5ゲーム差をつけかえした11年の中日は、8月の段階から12.5ゲーム分ヤクルトを上回った計算になる。

交流戦終了時点で、阪神とヤクルトとの差は「12.5」。なんか、やれそうな気がしてきた。


あ、そうそう、矢野監督の後釜として、落合さんの名前も上がっているが、個人的には絶対にやめといた方がいいと思っている。阪神のためにも、落合さん個人のためにも。

なぜって、あの野村克也さんでさえ、最後は石もて追われる形で阪神を去った。阪神ファンは、阪神への愛を公言しない外様を容赦しない。というか、阪神への愛を公言してきた矢野監督であっても、これだけのことになってしまうのだから、よくも悪くもビジネス・ライクな落合さんが阪神の監督になろうものなら、空前の軋轢が生じるのはほぼほぼ間違いない。かといって、ビジネス・ライクでない落合さんは、もはや落合さんではないだろうし。

というわけで、素晴らしく優秀な方だとは思うけれど、落合監督の招聘、わたしは大反対です。

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