【2022年日本野球界を総括】今年のセパ優勝チームから見る、ペナントレースを勝ち抜く奥深さ
連覇は難しい、と言われる。
理由を探していけば、たぶん、きりがない。対戦相手は一線級のピッチャーを当ててくるようになるし、何より、モチベーションが違ってくる。優勝したシーズンがキャリアハイの出来で、以後は下降線を辿っていく選手もいるだろう。
まして、21年のヤクルトとオリックスは、開幕前は優勝どころか、最下位を免れるかどうかという見方をされていたチームだった。豊富な資金力を背景に実力者をズラリと揃えている、というわけでもない。一度はノーマークで優勝することはできても、そうではない22年は難しい、というのが大方の予想ではなかっただろうか。
わたし自身、そう思っていた。
パ・リーグはソフトバンク、セ・リーグはタイガース。それが優勝予想だった。阪神の優勝予想に関しては、予想というよりただの(私の)願望であり、毎年言い続けていることなのでこの際忘れていただきたいのだが、ホークスが覇権を奪回するということに関しては、結構な自信をもっていた。
まずは戦力が図抜けていること。先発には球界を代表する絶対的エースがいて、打線にも穴がない。21年に優勝できなかったのは、単にかみ合わせがうまくいかなかったというか、どんなチームであっても何年かに一度襲われてしまう「何をやってもうまくいかないシーズン」だったから、だと思っていた。
しかも、結果的にクライマックス・シリーズにすら届かなかったことで、ホークスの選手はいつもとは違ったシーズンオフを過ごすことになった。
「クライマックスに出る。日本シリーズに出る。そうすると、結果的には他のチームより1カ月ぐらい長くシーズンを送ることになるじゃないですか。ぼくたちが試合をやっている時期に、他のチームは来シーズンのための練習をやっいてる。今年そういう側になってみて思ったんですけど、心身のコンディションが全然違ってくるんですよね」
だから来年はいい結果が残せそうです、と言って笑ったのは、1年前の千賀滉大だった。白状すると、この言葉を聞いた時点で、22年の優勝はホークスしかないな、とわたしは思ってしまった。もとより力のあるチームが、新シーズンは万全の構えで臨んでくる。ひょっとすると、独走での優勝になるのではないか、とまで思った。
本人が予感していた通り、22年の千賀は、21年の千賀を超える活躍を見せた。勝ち星こそ「11」と期待されたほどには伸びなかったものの、防御率は驚異の1点台である。ホークス・ファンからすれば物足りないところがあるかもしれないが、千賀だけでなく、他の選手たちが残した成績も、十分優勝に値するものだった。
だが、そんなソフトバンクを、オリックスは土壇場でうっちゃった。勝ち星の数で並び、勝率で並びながら、直接対決の差という前代未聞の微差で差しきった。
なぜ彼らは球史に残る超デッドヒートを制し、連覇をなし遂げることができたのか。
要因の一つに、千賀をも凌駕する防御率を叩き出し、沢村賞にも選ばれた山本由伸の大車輪があったのはいうまでもない。15勝、1.68という防御率、205の奪三振。これをエースといわずして何といおうか、という成績である。
打撃陣では何といっても吉田正尚の奮闘が光った。惜しくも首位打者は北海道日本ハムの松本剛に譲ったものの、打率、打点、本塁打、いずれも高いレベルの数字を残した。これまた、連覇の重要な立役者の一人といえる。
だが、ソフトバンクがロッテと、オリックスが楽天とシーズン143試合目を戦った10月2日、5回を迎えた時点でホークスは2-0でリードを奪い、バファローズは0-2のビハインドを背負っていた。
サッカーと違い、野球における2点差などワンチャンスでひっくり返る。だが、バファローズが逆転に成功したとしても、ホークスが逃げきれば、あるいは引き分けに持ち込めば、連覇の夢は断たれていた。状況は、圧倒的にホークス有利だった。
それでも、連覇は、成った。
プロの物書きとして無責任だとの誹りを受けるかもしれないが、どれほど頭を巡らせてみても、わたしにはオリックスの優勝を論理的に説明する言葉が見つからない。人智を超えた何かが、猛牛軍団を後押ししたとしか思えない決着だった。
セ・リーグに関しては……正しいか間違っているかは別にして、なぜヤクルトが連覇を達成できたのか、自分なりの答は出ている。
一つは村神様の大爆発、もう一つは阪神の誤算である。
21年の村上宗隆も凄かった。本塁打39本、打点112。4番バッターがこれだけの成績を残してくれるチームが弱いわけがない。だが,22年の村上は化け物だった。3年前、リーグ最多の184三振を喫し、打率2割3分1厘にすぎなかった男が、本塁打、打点、長打率など、すべての数字を大幅にアップさせた上に、打率も3割を大きく超えてきたのである。唯一、シーズン56本目の本塁打が期待されたシーズン最終盤だけは、人間らしいモロさを見せてくれたものの、最終戦の最終打席で期待に応えるという千両役者ぶりだった。
だが、どれほど村上が爆発しても、阪神が開幕から9連敗などという前代未聞の敗戦を演じていなければ、ヤクルトにとってはもっと難しいシーズンになっていたはずである。
21年、優勝したのはヤクルトだった。ただ、勝ち星で上回ったのは阪神だった。当然、新シーズンに臨むにあたり、高津監督も阪神を難敵とみていたはずである。阪神に村上はいないが、その分、投手陣は充実している。
ところが、優勝争いに絡むであろうという点では衆目の一致するところだった阪神に、ヤクルトは開幕3連戦で3タテを食らわせることに成功した。阪神の受けた衝撃はあまりにも大きく、ゴールデンウィークを迎える前に、優勝を期待するムードは霧散してしまった。
もちろん、優勝を争うとみられていたのは阪神だけではないし、高津監督が他のチームを警戒していなかったわけもない。ただ、自分たちをターゲットにしてくるであろうとされたライバルが、シーズン序盤でそれどころではなくなってしまったことは、ヤクルトにとって悪い材料ではなかった。
5月下旬に首位に立ったヤクルトは、そこから一気に加速し、2位以下に大差をつける。実はそれとほぼ時期を同じくして、阪神も猛烈な挽回を見せるのだが、あまりにも差が開きすぎていたため、ヤクルトにプレッシャーをかけるには至らなかった。
期待された奥川が戦列を離れるなど、ヤクルトにも誤算はあった。だが、しっかりとバイオリズムの波を捉えたことで、高津監督は決して豊富とは言えない投手陣を酷使することなく、安定した結果を刻ませていく。終盤、息切れかと思わせる状況もあったが、逃げきるに十分なだけの貯金を彼らはもっていた。シーズン全体を見渡した高津監督のマネージメント能力が光ったシーズンでもあった。
オリックスの中島監督にせよ高津監督にせよ、現役時代は超一流の選手だった、というわけではない。もちろん一流ではあったのだが、名前だけで現役の選手がひれ伏すような存在ではなかった。そんな2人の監督が、チームを最下位から優勝に導いたばかりか、連覇まで達成した。これは、現代の選手たちが監督に求める要素が、以前とは変わってきていることの表れかもしれない。
一方で、阪神はかつてのレジェンド、岡田彰布監督の再起用に踏み切った。選手に寄り添う、タイプで言えば高津監督に近かった矢野監督から、選手を引っ張っていくタイプへ切り換えたわけである。それがどういう結果につながるのか。個人的には非常に興味がある。
ともあれ、オリックスからは吉田が去り、ソフトバンクからは千賀の名前が消えた。新シーズンのパ・リーグは、ここ数年とはまったく違った展開となる可能性があるし、セ・リーグはセ・リーグで、ヤクルトの3連覇は許すまじと他の5球団が手ぐすねを引いていることだろう。
W杯に沸いた年末が過ぎれば、来年はWBCが待っている。野球ファンには何とも楽しみな新しい年がやってくる。
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