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baseball2023.01.25

阪神タイガースが、今年こそ優勝が掴めそうな気もしてきた理由とは

鯛は美味いしてんぷらも美味い。鰻は大好物だし、夏のスイカは欠かせない。

なのに、一緒に食べるとヤバいらしい。それが、食い合わせ。

阪神の新監督が岡田さんになると聞いた瞬間、まずわたしが連想したのがアレ……じゃなかった、コレだった。矢野さんと岡田さん。これ、食い合わせというか、順番としては結構最悪なんではなかろうか。本気でそう思った。

岡田さんがイヤだった、というわけではない。ただ、前任者の矢野さんは、賛否両論あったにせよ、従来の監督像から少し外れたというか、あえて外したところを狙っていったところがあった。本人は「ぼくは野村さんにはなれないし星野さんにもなれない」と言っていたが、なりたくない部分、なってはいけないと考えた部分もあったのではないかという気がする。

監督が絶対的な権力者である時代は終わった、あるいは終わりつつある──そう考えていたのではないか、と。

自分が現役だったころとは明らかに変わりつつある選手たちのメンタリティに合わせるべく、矢野さんは学校の先生のような立ち位置を狙った。残念ながら優勝には届かなかったものの、就任からの4年間、ただの一度もチームをBクラスに落とすことがなかったのは十分称賛に値する。00年代の金本や井川、藤川のような、実力的にも金銭的にも球界を代表するような選手がいなかったことを思えば、尚更である。

そんな監督の後釜が岡田さん?わたしが選手だったら、若い選手だったらきっと戸惑う。まず、年齢が離れた。直接指導を受けたことのある選手もほとんどいない。これだけで、ちょっとした心の壁ができてしまう。まして、監督らしくない監督を目指していた矢野さんに比べると、岡田さんはあからさまなまでに監督然している。

上手く歯車が噛み合ってくれればいい。だが、万が一昨年のようにスタートダッシュに失敗した場合、チーム内の不協和音は昨年の比ではなくなるだろう。選手たちからすれば、矢野さんほどにはよくわからん新監督に対する不満が募っていく可能性は十分にある。

というわけで、岡田さんにタイガースを任せるのであれば、一度誰かクッションを挟んだ方がいいのでは、というのが、新監督決定にあたってのわたしのファースト・インプレッションだった。

ただ、はっきり言えばやや悲観的だった新シーズンへの見通しは、少しずつ変わってきてはいる。

大きかったのは、やっぱり「アレ」だった。

岡田さんからすれば、何かを狙って発した言葉ではなかったはず。かつて、選手が不要な重圧を感じなくてすむように、「優勝」という単語を「アレ」に置き換えてみた。それと同じことをやっただけだった。

ところが、どういうわけかこの物言いがウケた。メディアが飛びつき、ファンも面白がった。ドラフト会議が行なわれたころには、すでに在籍している選手はもちろん、これから入団する選手までが「アレ」と言い出した。そしてついには、新シーズンのチームスローガンにまで祭り上げられてしまった。

たかがスローガン、されどスローガン。

阪神に限らず、いまではほとんどすべての球団が新シーズンを迎えるに当たってなんらかのスローガン、キャッチフレーズを発表するが、それがチームや社会に浸透できるかどうかはまた別の話である。というか、かなりの割合で、球団職員が知恵を絞ってひねり出したであろうスローガンは忘れられていく。

ところが、今年の阪神の場合は、球団が何かをするまでもなく、「アレ」が圧倒的勢いで浸透してしまった。

期せずして、メディア、ファン、球団の目指すべき方向、姿勢がピタッと定まってしまった。

これってかなり凄いことだとわたしは思う。

よそ様をチラ見してみると、尚更そう思う。

どことは言わないが、ソフトバンクや広島から大ベテランを引っ張ってきたチームがある。もちろん、編成する側からすれば勝つために最善の手段と考えての補強なのだろうが、チームの若返りを阻害する動き、と感じる人もいる。

まとまりにくいと思いません?

ま、よそ様のことはともかくとして、「イチにカケル!」とか「挑・超・頂」とか「It’s 勝笑Time!」とか、もちろん「不屈~GIANTS EVOLUTION」などという、何だかよくわからんスローガンに比べると、今年の「A.R.E」が発揮している「チームに一体感を持たせる力」は相当に秀逸である。

というわけで、ずいぶんと気をよくして迎えた昨年の年末、ラジオの仕事で打撃コーチ就任がほぼ決まっていた今岡真訪さんと対談する機会があった。

現役時代の今岡さんと言えば、よく言えば天才肌、悪くいうとちょっと宇宙人的な印象を抱いていたわたしだったが、お話をうかがってみて、印象がずいぶんと変わった。

そもそも、子供のころは阪急ファンだったという今岡さんが、ドラフトの際に阪神を逆指名したのは、「地元が大阪だから」とか「阪急の次に好きだった」とかではなく、単純に「阪神が一番最初に声をかけてくれたから」だったという。

そんな今岡さんが、なぜ今回阪神のコーチ就任要請を受けたのか。理由を聞いてちょっと驚いた。阪神だったから、ではない。岡田監督からの要請だったから、というのである。

こういう発想を持ったコーチは、矢野体制にはいなかったように思う。

昭和の監督像とは違った方向を目指した矢野さんを支えたのは、「仲間」だった。監督と一緒に戦い、監督と一緒に苦悩を背負う。ほとんどのコーチが、そんな自覚をもっていたはずである。

だが、今岡さんは違った。彼にとっての岡田さんは、「連帯感」を抱く仲間ではなく、「忠誠」を誓う対象のようだった。つまり、ヨコではなくタテ。きっちりとしたタテの1本線。こういうスタイルの指揮系統も、これはこれでアリだと思う。

ここ数年、阪神が優勝に届かなかった大きな理由の一つに、貧弱な打線があったことは多くの人が認めるところ。新しい打撃コーチにかかる期待と責任は大きいが、「まだ直接見たわけではないので」と前置きをしつつも、今岡さんはテコ入れに自信をもっているようだった。

興味深かったのは、4番バッターに対する考え方だった。

「打てる4番がチームを勝たせるっていうやないですか。あれ、違うと思うんです。チームを勝たせるのは、仲間に苦言できるリーダー。そういう選手のいるチームが勝つんやと思います」

阪神が最後に優勝した18年前、最終的には打点王に輝く今岡さんだったが、シーズン中はかなりこっぴどく叱られることがあったという。

「金本さん。ぼく、めちゃくちゃ怒られてました(笑)」

誰もが認める4番バッターを育てるのは簡単なことではない。だが、仲間に苦言できるリーダーを育てるのは、首脳陣が関与できる割合がもう少し高い。というか、耳元で自覚を促す言葉を囁くだけで、一気に覚醒してくれる可能性だってある。

問題は、そういう可能性を秘めた人材がいまの阪神にいるかどうか、なのだが、その点、今岡さんは自信タップリだった。

「外から見ていただけですが、コイツだったら大丈夫だろうっていうのは、います」

そんなわけで、まだキャンプインもしていないのに、期待だけは例年以上に募ってしまっているわたしである。何だか、今年こそイケそうな気もしてきました。

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