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baseball2023.05.02

阪神タイガース、開幕から一か月。ここまでの試合を振り返りながら今後の展望を予想

5月上旬の段階における順位がどれほど意味のないものか。阪神ファンは知っている。身に沁みて、よく知っている。

なにしろ、去年のいまごろと来たら、借金が2ケタを優に超え、下手をしたら「20」にまで届きかねない大惨劇の真っ只中にあった。わたし自身、「いやいや、この時期の順位なんて何の意味もない」と信じたがってはいたものの、かといってここから借金を完済するとか、Aクラスに滑り込むとか、そんな明るい未来はまったく想像できずにいた。

結果は、ご存じの通り。

最終的には借金を抱えてシーズンを終えることにはなったものの、阪神は「16」あった借金を完済し、もしかしたら2位も……というところまで盛り返した。およそ返済不可能と思われる借金でも、案外あっさりと返済することができるということを、昨年、阪神ファンは骨の髄までたたき込まれた。

なので、貯金を持ってゴールデンウィークを迎えられそうな今年の阪神を見て、沸き上がってくる感情は2つある。

はあ、去年を思えばなんて幸せな毎日。

いやいや、借金生活に転落するのもすぐってことだし。

後出しジャンケンのようになってもイヤだからここで書いておくが、矢野前監督の後任が岡田さんになると聞いたとき、わたしは「最悪!」と思った。岡田さんの能力うんぬんに不満があったわけではない。ただ、食い合わせが悪いというか、天ぷらのあとにスイカを食べるように思えてしまったのだ。選手と上下の関係ではなく、よりフラットな関係を築こうとしていた矢野監督に慣れた阪神の選手からすると、いかにもボス然とした新監督のスタイルにアレルギー反応が起こりそうで。

幸い、メディアを見ている限り、目立った不協和音は聞こえてきていない。もちろん、水面下では何が起こっているかはわからないが、久しぶりに現場に復帰した岡田監督が、前回の監督時とは違ったスタイルに切り換えていたのも事実だった。

まず、よく笑うようになった。

岡田さんに限らず、かつてのプロ野球の監督たちは、試合中にほとんど笑顔を見せなかった。それはそれで一つのスタイルだとは思うものの、阪神では、去年まで試合中にベンチ全体が喜怒哀楽を見せるのが当たり前のチームだった。

ホームランを打ってベンチに戻った選手にメダルを首からかけるのも、佐藤輝明がカメラに向かってZポーズを決めるのも、以前であれば忌み嫌うか、少なくともやらせないと考える監督の方が一般的だっただろう。だが、前任者はそれを認め、むしろ後押しをしていた。新監督がそれを全面的に禁止したら、選手たちはどう思うか。

わたしだったら、自由な時代を知っていて、しかし、いまではそれが激しく制限される環境で過ごすことになった人間の気持ちになる。


そもそもホームラン数が圧倒的に少ないこともあるのだろうが、ここまでのところ、矢野時代のようなホームラン後のパフォーマンスは影をひそめている。ただ,正直なところ、わたしはもっとシリアスというか、ピリピリしたムードが漂うベンチになることを想像していた。

それに比べれば、まあまあ、悪くない。岡田監督は岡田監督で、前回登板時の自分とは違う監督像を演じようとしているのがよくわかる。食い合わせの悪さは、想像していたほどのレベルには達していない。

それでも、20代から30代前半の選手がほとんどのいまの阪神で、バース、掛布、岡田のバックスクリーン3連発をリアルタイムで経験した者は一人もいない。監督としての栄光も、はや18年前の話である。多くの阪神の選手にとって、新しくやってきた監督は、球団のレジェンドというより、得体のしれないオッサンでしかなかった可能性もある。

だとすると、新監督が選手の心をつかむには、どこかで「お、この監督スゲエ」という采配を見せる必要があった。

それが、開幕第三戦に起きた。

4-2とリードして迎えた8回裏、2アウト2塁、バッター島田という場面だった。左腕エスコバーに一つストライクを取られた場面で、岡田監督は代打として原口を送り込んだ。通常ではあまり見ることのないタイミングでの代打起用だったが、ここで原口が初球をレフトスタンド中段に放り込んでしまった。

今度の監督は、少なくとも勝負勘は凄いものを持っている──おそらくは多くの選手が、そう戦慄したことだろう。選手の気持ちをつかむ、信頼を勝ち取るという意味で、極めて大きな意味を持つ采配だった。

もちろん、いいことばかりではない。

4月23日の中日戦。1点を追う阪神は9回、先頭の大山が相手のエラーで出塁し、続く佐藤はライトフライに倒れたものの、島田が今季初ヒットを打って1アウト1、2塁の好機を作った。

すると、ここで岡田監督は2塁ランナーの大山に代えて渡辺を代走に送り、打率が1割を切りそうな深刻な不振にあえぐ梅野をそのまま打席に立たせた。結果は、最悪のダブルプレー。なぜ渡辺を代走としてではなく、梅野の代打として使わなかったのかとネット上には怒りの声があふれたが、試合後の岡田監督がその理由について語ることはなかった。順風満帆だった岡田監督に対する風向きは、この試合以降、少し変わりつつある。

とはいえ、去年を思えばなんてことはない。

借金16を完済したことによる自信は、誰よりも阪神の選手たちが強く抱いているはず。つまり、今年の阪神は、ちょっとやそっとの逆境で音をあげたりはしないということだ。甲子園との巨人戦でようやく1本は出たものの、サトテルの不振はヤクルトの村神サマなみに深刻だし、青柳、西純矢も完調にはほど遠い。何より、この原稿を書いている4月27日の段階で、ついに打率1割を切ってしまった梅野の大ブレーキは、誤算なんてレベルを遥かに超えてしまっている。

ただ、逆に言えば、これほどの誤算は悪材料を抱えてもなお、今年の阪神は上位に食いついている。逆境にも強くなっている。

アホだと言われるのは覚悟している。何年同じことを繰り返すんだという声も甘んじて受ける。それでも、思う。

今年こそ、阪神は優勝する。

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