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baseball2023.05.05

大谷翔平、神から授かった肉体と才能とともに超人的メンタルを持つ完璧なアスリート

経験がないので想像してみる。勉強して勉強して勉強しまくって、超難関大学に合格したとする。で、言われる。

「1週間後に司法試験だからね」

ちょっと待ってくれよお、とわたしなら思う。子供の頃から憧れ、目標としてきた大学に合格した。達成感は凄いし、ある種の燃え尽きというか、放心状態にもなっている。なのに、すぐまた超難関の試験を受けろと?で、そこで結果を出せと?

サッカーに置き換えてみる。W杯に優勝した。国中がお祭騒ぎになった。昨年のカタールW杯は例外として、通常、ヨーロッパのサッカー界は数週間のオフに入るのだが、そんなもんを一切なくして、すぐさま国内リーグ戦が始まることになったとする。

メッシだって、きっと音をあげる。実際、カタールW杯が終わってからの彼は、およそ2週間弱、試合から遠ざかっている。

大谷翔平は、だから、化け物である。


WBCという大会が、彼にとって極めて大きな存在であることは誰の目にも明らかだった。ゆえに彼は、甲子園でも日本ハムでもエンジェルスでも見せたことがないぐらい、感情を爆発させていた。伝説的な激闘となった準決勝のメキシコ戦や、最後はチームメイトでもあるトラウトとの対決となった決勝のアメリカ戦を突破した達成感は、充足感は、格別なものがあったはずである。

わたしだったら、腑抜けになる。いや、一般人と比較しても仕方がないから、WBCに出場したそのほかの選手の成績に目を向けてみる。

DeNAの今永は、そもそも開幕自体に間に合わなかった。ヤクルトの村神さまの打率は、この原稿を書いている4月26日時点で、1割6分7厘しかない。骨折を押して出場した西武の源田は、まだ1軍に復帰できていない。あまり出番がなかったからか、元気一杯で帰って来たように見えた阪神の湯浅も、あっさりと戦線を離脱してしまった。

もちろん、巨人の岡本や戸郷、ロッテの佐々木のようにキッチリと結果を残している選手もいる(岡本に関しては、打点の少なさに不満を覚える巨人ファンも少なくないようだが)。これはこれで本当に凄いことだとは思うのだが、しかし、WBCにおける大谷は、彼らよりはるかに多くのものを背負っていた。肩の荷を下ろした瞬間の脱力感、解放感はとんでもなく大きかったはずなのだ。

なので、驚愕するしかない。

投げては3勝0敗で防御率0.64。奪三振率はリーグ2位の12.21、被打率0.92はダントツの全米ナンバーワン。打ってはホームラン5本、打率2割5分3厘と、絶好調とはいえないものの、悪くはないスタートを切っている(4月26日時点)。

どういうメンタルしてるんでしょう、この御方は。

イギリスでは、とてつもない偉業を達成した人物に対し、“サー”という称号が与えられることがある。サッカーで言うならば、50歳までプレーした“ドリブルの魔術師”ことスタンリー・マシューズ、音楽界からはポール・マッカートニーやエルトン・ジョン、ミック・ジャガーなど。言ってみれば、世紀を超えて語り継がれるであろう人物にのみ贈られる称号、である。

ありえないとわかりきった上で言わせてもらうと、大谷翔平という野球選手がやってきたこと、やっていることは、彼がイギリス人であれば文句なしに“サー”の称号が贈られる……というか、贈られなかったら国民が騒ぎだすレベルの偉業だとわたしは思う。

世界中の目利きから「無理だ」と断定された二刀流という難事に真っ向から取り組んだことも凄い。どちらかを中途半端に終わらせることなく、それどころかどちらでもナンバーワンのタイトルを取れそうなところも凄い。だが、これは特別な才能、特別な肉体を授かったからこそできることでもある。

メンタルは違う。こればっかりは、それまで過ごしてきた人生で決まる。言い方を変えれば、ほとんど誰も大谷がやっていることを真似るのは不可能だが、大谷のメンタルは、ほとんどすべての人に真似できる可能性がある。

0.00000000000001パーセントぐらいは。

74年W杯の決勝で敗れたヨハン・クライフは、「二度とあんな気持ちは味わいたくない」と言って、実際、二度とW杯には出なかった。彼もまた、神から特別な能力を授けられた選手だったが、そこに宿る精神は、一般人のそれと変わらなかった。少なくとも、一般人にも十分に理解できるレベルにはあった。

大谷は違う。神から授けられた肉体と才能を持ちつつ、なおかつ、自らのメンタルも超人的レベルにまで高めている。

かくも完璧なアスリートが、この世に存在したことがあっただろうか。

モハメド・アリは偉大だったが、その言動などから、嫌悪する人も少なくなかった。ペレは史上最高のサッカー選手かもしれないが、プライベートの素行はダラしない一面もあった。マイケル・ジョーダンは……わたしの中では一番大谷に近い存在だが、その彼ですら、野球とバスケットを同時にやったわけではなかった。野球とアメフトを同時に両立させたディン・サンダースにしても、アメフト選手ほどには野球選手として優秀だったわけではない。

日本人が、日本人のアスリートを、日本人であるがゆえに祭り上げる現象を、わたしは常々苦々しく……というか、かっこ悪いなと思ってきた。大谷は日本の誇りだ、などといいたいわけではまったくない。

ただ、この選手は凄い。ただただ、凄い。同じ時代を生きるありとあらゆるアスリートと比べても、歴史に名を刻んだレジェンドと比較しても、まったくヒケを取らないどころか、ひょっとしたらナンバーワンと言ってもいいのでは、と思うぐらいに凄い。

何より凄いのは、これほど凄い大谷翔平が、いまだ上昇曲線を描いているように、描こうとしているように感じられること、である。

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