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baseball2024.10.01

ラーズ・ヌートバー、バットで掴むメジャーの未来と再び挑むWBC!

今年もドラフト会議の時期が近づいてきた。阪神は明治大の宗山に行くのか、はたまた関西大の金丸なのか。おそらくは各チームのファンが、未来のスター候補生たちの行く末に注目していることと思う。

ドラフト会議と言えば、個人的にはもうひとつ、楽しみにしていることがある。上位指名が終わったぐらいの時間帯から始まる、民放のドラフト特番である。

ご覧になられたことがある方も少なくないと思うが、そうでない方のために簡単に説明しておくと、要は、指名確実な選手から、声がかかるかかからないか、当落線上ギリギリの選手まで、いろいろな選手の人となりを取材し、当日はその選手や家族に密着して指名の瞬間を待つ、という番組である。

これが好きで好きで。

不遇にめげずに頑張った。難病を乗り越えた。亡くなった肉親の思いを背負っている──取り上げられる選手たちは、さすがにテレビ局が徹底したリサーチをしているだけあって、それぞれが重たい、あるいは感動的なエピソードを背負っている。これを見てしまうと、わたしの場合はどうやってもその選手を嫌いにはなれなくなってしまう。

それぐらい、テレビ局、あるいはメディアが発掘する“人物ノンフィクション”には力がある。興味のなかった存在に親近感を抱かせ、なかった人気を作り上げてしまうぐらいの力がある。自分としては、かなりの影響は受けている。

ラーズ・ヌートバーに関しても、またしかりである。

恥ずかしながら、WBCの日本代表に選ばれるまで、わたしは彼のことをまったく知らなかった。メジャーリーグに詳しい解説者の方の中には、なぜ彼を呼んだのかわからない、的な発言をなさった方もいた。数字を見れば得心がいった。メジャーでの実績は実質2年。残した打率はそれぞれ2割3分9厘、2割2分8厘である。


ところが、WBCが終わると、この解説者の方は手厳しい批判の声にさらされることになった。どれほど手厳しかったかというと、「みなさんに不快な思いをさせたのは謝らなくちゃいけない」と火消しに回らざるをえなかったぐらい、手厳しかった。それぐらい、ヌートバーは日本中から愛される存在になっていた。製菓会社やメガネ・メーカーがCMに抜擢するぐらい、愛されるようになっていた。

では、ヌートバーがWBCで残した成績はいかなるものだったのか。

7試合に出場して26打数7安打(2割6分9厘)、本塁打0、打点4。

悪い成績、ではない。だが、打率4割9厘、本塁打2、打点13の吉田正尚や打率3割4分6厘、本塁打1、打点5の近藤健介に比べるといささか見劣りはする。ちなみに大谷翔平はと言えば、打率4割3分5厘、本塁打1、打点8と「さすが」としかいいようのない数字を残している。

つまり、単に数字だけを注目するならば、WBCにおけるヌートバーは、必ずしも特筆すべき活躍をした選手、というわけではなかった。にもかかわらず大会終了後の彼はチームを象徴する存在、といったレベルにまで認知度を高めていた。近藤が全国ネットのCMに起用されることはなかったが、ヌートバーは抜擢された。

物語の力だったのかな、とわたしは思う。

彼には物語があった。母親は日本人で、日本語はほとんど話せないものの、日本食は好きだと伝えられた。少年時代には甲子園のスターたちが彼の家でホームステイをしていた、というとびっきりのエピソードもあった。加えて、明るい性格とペッパーミルのパフォーマンス。大谷以外の日本人選手がグラウンドの中だけで話題を提供している中、彼だけは多くのメディアがこぞってグラウンド外のエピソードを発掘した。大会期間中に実の母親がメディアに登場しまくったのも、ヌートバーだけではなかったか。

誤解のなきよう。そのことを批判するつもりは毛頭ない。数字だけでは見えない部分で、ヌートバーがチームに貢献していた部分も多々あっただろう。ただ、彼に物語がなければ、そもそも選抜されていなかったかもしれないし、選ばれていたとしても、ここまでの認知度を得ることはなかったのでは、とも思う。

そもそも、大会直前にケガでチームから離脱した鈴木誠也が健在だった場合、それでもヌートバーは外野の一角を任せられていただろうか。吉田を外し、あるいは近藤を外し、はたまた鈴木を外し、ヌートバーを入れるという選択肢がありえただろうか。

そう考えると、あのWBCはヌートバーにとってすべてが上手く回った大会だったのだな、という気がしてくる。

興味深いのは、サムライ・ジャパンにおける彼の今後である。

次回のWBCは26年の3月に開催されることがすでに発表されている。前回大会に出場した外野陣は全員20代だったことを考えると、次の大会でも、選考の軸にヌートバーを含めた優勝メンバーが入ってくるのは間違いない。

前回大会では、栗山監督は離脱した鈴木を含め、5人の外野手を選考していた。吉田、ヌートバー、近藤に加え、足のスペシャリストでもある周東である。いわば、レギュラー候補4人+スペシャリスト1人。優勝という最高の結果を残したメンバー構成だけに、次期監督としてもここをいじるのはちょっと難しいだろう。

となると、そこにヌートバーは入ってこられるのか。

WBC優勝後のシーズンとなった昨年、彼はキャリアハイとなる2割6分1厘という成績を残している。ちなみに今シーズンは9月17日現在で2割4分5厘。

一方、ソフトバンクに移籍した近藤はNPBで3割を超える打率を残し続けており、鈴木は2年連続の20本塁打を早くも達成している。今年はケガなどに泣かされた感のある吉田にしても、2割9分前後、2ケタ本塁打はコンスタンスに記録しつつある。打撃面でのヌートバーのアドバンテージはほとんどなく、あるとすれば、ライバルたちにセンターを守った経験が少ない、ということだろう。

問題は、打てて守れるセンターの選手が出てきた場合、である。

これまで、野球の日本代表のメンバーが選考される際、誰が入った、外れたで論争が起きることはあまりなかった。個人の成績がはっきりと数字で現れるスポーツだということもあり、選ばれた理由、外された理由がサッカーに比べると明確になりやすい、というところが大きいだろう。


だが、成績を超えた次元で全国的な知名度を獲得したヌートバーは、ひょっとすると2年後、選ぶべきか否かの論争をひき起こすかもしれない。センターというポジションを、前回大会のスターにして、しかし打率は2割5分前後の選手に任せるべきか、否か。

いまやその人となりや家族構成まで知られるようになった存在をメンバーから外すのは、どんな監督にとっても簡単なことではない。他ならぬわたし自身、彼が外れたら相当にガッカリするだろうなという確信もある。あの明るい笑顔は、2年後もまたみたい。

となれば、この9月に27歳になったヌートバーには、一段の飛躍を期待するしかない。数字だけ見ても「これだったら選ばれて当然だよな」と誰もが納得する成績を、カージナルスで残してくれることを期待する。

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