穴井詩選手 優勝特別インタビュー。激戦「ヤマハレディースオープン葛城」、プレーオフを制して堂々の4勝目!Part2「プレーオフ編」
3月30日~4月2日に静岡県の葛城ゴルフ倶楽部で行われた「ヤマハレディースオープン葛城」で、ゴルフ5所属の穴井詩選手が自身4年ぶり4度目となる優勝を成し遂げた。
その穴井選手と、今大会穴井選手のキャディを務めた、チームゴルフ5のコーチでもある田子元治プロの2人に、アルペングループマガジンがインタビュー。二人三脚の勝利ともいえる今大会の優勝秘話や裏話を2回に渡ってお届けする。
その後半となる今回は、プレーオフの話を中心に語ってもらった。
田子コーチがキャディを務め、チームゴルフ5二人三脚での勝利だった
●テレビ塔に当てて「戦いのゴングを鳴らした」
穴井選手にとって3度目のプレーオフ。過去の戦績は1勝1敗
――最終ホールを終えて穴井選手が9アンダー。最終組の山下美夢有選手はパーで伸ばせず8アンダーでのフィニッシュでしたが、ささきしょうこ選手がバーディを奪って9アンダーで穴井選手に並び、2人によるプレーオフが決まりました。どんな心境でしたか?
穴井選手:あの2人なら、多分2人ともバーディフィニッシュでプレーオフだろうと思っていたので、動揺はありませんでした。
――ささき選手のことはよくご存じなんですか?
穴井:今年は何度か同じ組でプレーしていたので(ダイキンオーキッドレディス最終日、Tポイント×エネオス初日)、状態も含めてよく知っています。なのでプレーオフが決まったときにはお互いに指をさし合って「またお前とか(笑)」って笑い合っていました。
――リラックスできていたんですか?
穴井:いえ、プレーオフってそんなに経験があるわけじゃないので、メチャクチャ緊張していました(笑)
――プレーオフに入って、いきなりティーショットは右のテレビ塔に当たってしまいました。
穴井:もともと狙いは右サイドギリギリなんですが、少し振り遅れてプッシュアウトしてしまいました。打った瞬間は「あ~、相手が球を打つ前に(試合が)終わっちゃった」と思いました。私にはボールの行方は見えなかったのですが、競技委員さんから「フェアウェイ」という報告があってひと安心でした。
――ティーグラウンドから歩いていくときに、田子キャディと笑い合っている姿がテレビに映し出されていました。
田子キャディ:僕は、あの球なら鉄塔には当たらないだろう、フェアウェイ右サイドかなと思ったら、「ゴーン!」とすごい音がしたんです。でもフェアウェイだって言うから「出てきてよかったね」と話していました。
穴井:「プレーオフ開始のゴングの音だね」って言って笑いました(笑)
――飛ばし屋の穴井選手でも2オンは狙えなかった?
穴井:はい。300ヤードくらい残っていましたから、私はレイアップ。(ささき)しょうこのティーショットはすごく飛んでいて、2オンのチャンスだったんです。でもUTで狙った球が吹き上がっちゃったみたいでバンカーへ。彼女はアプローチがすごくうまいので、あの2打目がフェアウェイに残っていたら、寄せられて一気にピンチだったと思います。
●相手は決めてきて当然。自分で決めて勝つしかない
ティーショットのミスで2オンは狙えず、プレーオフ1ホール目は3打目勝負だった
――バーディーパットは2人とも長めでしたが、ささき選手が先に打つ展開でした。ささき選手が先に決めたらマズイなというようなことは考えるんですか?
穴井:ああいう展開では相手は絶対に決めてくるものだと思っているので、私は「どうやって入れてやろうか」と、自分のパターを決めることしか考えていませんでした。
田子:僕は結構複雑な心境でした。もちろん詩選手に勝ってほしいので相手が外してくれればラッキーなわけですが、僕がそう考えてしまうと悪い流れになってしまうと感じて、「入れてくれ!」って祈りました。ささき選手が入れたら詩選手も入れると信じていましたから。
逆にささき選手が外したあとは、「これは2ホール目に行く流れだな」と、なんとなく感じていました。もちろん詩選手が決めてくれれば最高ですが、その場の空気というか、試合の流れ的に、次が勝負だなと。
――なるほど。ああいう場面でキャディさんはそんなことを考えているんですね。
田子:でもプレーオフ2ホール目に入ってティーショットがフェアウェイに行けば、穴井選手は勝てると思っていました。
――プレーオフ2ホール目のティーグラウンドでは、ささき選手と談笑していました。
穴井:しょうこに1ホール目のティショットについて「あんな球打たれたらビックリするからやめてよ(笑)」って言われて。私は「なに言ってんの。あれは戦いのゴングを鳴らしたのよ」って渾身のギャグを返したんですが、全然ウケてくれませんでした(笑)
――2ホール目のティーショットはフェアウェイど真ん中。2打目は左のバンカーに入ってしまいましたが、2オンを狙って攻めた結果ですか?
穴井:花道を狙ったショットが少し引っかかってしまったのですが、あれは想定内。右のバンカーは難しくて寄せられないのですが、左のバンカーからはグリーンが受けていて寄せやすいので、「花道からあわよくば乗ってくれれば最高、左のバンカーでもOK」と思って打ちました。
●2打目のバンカーは想定内。「内側につけてやる」
UTで打った2打目は、右のバンカーだけは避ける狙いだった
――ささき選手はグリーンまで80ヤードの難しいバンカーショットとなりましたが、そこからピンそばにつけてきました。
穴井:さすがでしたね。でもしょうこならあのくらいは当然なので、焦りはありませんでした。私のサードショットはバンカーでもボールのライは良かったですし左足上がりで打ちやすかったので、「内側につけてやろう!」と強めに打っていきました。ただ、フェースを開いて打つかどうか迷ったので、打つ前に田子さんに相談しました。そうしたら「フェースを開いたらショートしそうだね」って言われたので、あまり開かずに打ちました。
田子:詩選手はすごく集中していたし、イメージも出ていたみたいなので、僕はあまり余計なことは言わずにそれだけ答えました。
――イメージ通り、ささき選手よりも内側につけましたね。
穴井:ほんの数十㎝だと思います。
――やっぱりささき選手は決めると思っていたんですね?
穴井:はい、当然そう思っていました。だから彼女が外したのを見た後は、タッチを合わせて安全に行きたいという気持ちが一瞬頭をよぎったんです。でも「プレーオフ3ホール目には行きたくない」と気持ちを引き締め、勇気をもって強めに打ちました。
――カップ左から入っていきました。
穴井:結果的にはちゃんと打てたから入ったので、合わせていたら外していたかもしれませんね。
●目指すはシーズン複数勝利。メジャーも獲りたい!
技術的には方向性アップが大きかったが、心技体の充実が結果につながった
――試合を振り返って、勝負所はどこだったと思いますか?
穴井:苦しい場面が続いたので、正直、それをしのいだ場面全部が勝負所だったと私は思います。
田子:僕はあえて挙げるなら15番ホールのバンカーショットですね。パー5の2打目をオーバーして奥のバンカーに入れてしまったんですが、そこから上手く寄せてバーディーを獲れた。難しいバンカーショットをホントによく寄せましたし、15番、18番はどうしてもバーディーを獲りたいパー5で、しかも最終日は風向きもフォロー。14番でボギーを打っていたこともあり、バウンスバックにもなったので、流れという意味でもすごく大事なバーディだったと思います。
穴井:15番のバンカーショットは左足下がりでホントに難しくて、田子さんに「どうやって打ったらいい?」って聞いたんです。そうしたら「カットに入れたらいいんじゃない?」って言われたので、それを意識して打ちました。
田子:あのライではカットに振って鋭角に入れていかないとボールの下にヘッドが届かないですからね。でもあれは、ヘッドの入れ方を計算して上手く打ったとかいうよりも、詩選手自身の勝負強さが現れた場面だったと思います。
――お話をお聞きしていると、いろいろな場面で田子キャディの支えがあったんですね。
穴井:今回は本当に田子さんがキャディじゃなかったら勝てなかったと思います。すごく気持ちを前向きにしてくれて、苦しい試合のなかでも精神的にラクにしてくれました。
田子:やめてよ、あんまり褒められると照れるよ(笑)。でも実際に僕もすごく楽しくて、練習日からずっと「超楽しい!」って言い続けていました。詩選手は楽しくプレーしてパフォーマンスが上がるタイプだと思っているので、この「楽しさ」は大事だと思っていました。オフから彼女のゴルフに対する向き合い方が変わって来ているのを見てきましたから、それが試合でこうやって発揮できているのを見ると本当に楽しかった。
――向き合い方?
穴井:今年はとくにフィジカルトレーニングをしっかり取り組んだんです。今まではオフの間にトレーナーさんに体を仕上げてもらって、それで「大丈夫だろう」ってそれっきりという感じだったんです。でも今年はそれを自分でどうやって維持するかを考えるようになって、シーズンが始まっても部屋で少しずつトレーニングしたり、パットをやったり、自分と向き合う時間をつくるようにしました。
――優勝インタビューでも、穴井選手は「勝てない4年間も無駄じゃなかった」っておっしゃっていましたね。
穴井:去年はシードもギリギリでしたし、シーズン半ばから終盤にかけて練習量を増やしてもうまくいかず、苦しい1年だったんです。それで少し取り組み方を変えなきゃと思ったんです。
――早速結果につながったのは素晴らしいですね。今後の目標を教えてください。
穴井:シーズン前の目標は「1勝」だったんです。でもその目標は達成できたので、今は国内メジャーを獲ること、シーズン複数回優勝が目標になりました。賞金総額も初の1億円超えを目指したいな。なんだか欲にまみれてますね(笑)
――素晴らしい目標じゃないですか! 田子キャディはコーチの視点から見て、どうですか?
田子:今大会の舞台だった葛城GCは難しいコースで、しかもコンディションもハードでした。そんな試合で勝つには、スキルだけじゃなくてフィジカル、メンタルも総合的に揃っていることが必須条件です。その試合に勝てたということは、いまの詩選手が総合的に高いレベルにある証拠。僕はメジャーの勝利も近いと思っています。
――今後、海外挑戦も考えているんですか?
穴井:まだシーズンを通して海外で戦うレベルにはないと思っていますし、米ツアーは移動もたいへんですから、とりあえず今年はスポット参戦でメジャーに挑戦できたらいいですね。
――今後の活躍を期待しています!
穴井:はい、頑張ります!
そう力強い言葉でインタビューを締めくくってくれた穴井選手。ベテランと呼ばれる域に入ってもなお高い目標を口にする姿は、非常に頼もしい。
今シーズンはまだまだ始まったばかり。自身曰く“欲にまみれた”穴井選手の活躍を幾度となく目の当たりにする、そんなシーズンになりそうだ。
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