茂野海人の日本代表への想い 「一選手としては何としても、どうしても、あの舞台に立ちたい。」
自身初のラグビーW杯出場へ、茂野海人がアピールを続けている。
4年前の2015年大会は、ラグビー留学先のニュージーランドで観戦した。日本代表が南アフリカを下した一戦に、テレビの前で興奮した。
「自分は日本代表に選ばれていなかったですし、その場にいられなくて悔しいとかいうよりも、とにかくスゴいなと感じました。日本代表のラグビーもそこまでレベルが上がってきたんだ、と」
オークランド州の代表に選ばれるなど、ニュージーランドでは充実した時間を過ごした。翌16年はスーパーラグビーに初参戦したサンウルブズに招集され、6月には日本代表初キャップを獲得する。
17年にはトップリーグのNECからトヨタ自動車へ所属先を変える。日本代表定着を見据えた決断だったが、茂野は強制的な休養を強いられてしまう。NECから移籍承諾書が発行されなかったため、17-18シーズンのトップリーグに出場できなかったのだ。
国際舞台に復帰したのは18年11月だった。中立地のイングランドで行なわれたロシアとのテストマッチで、およそ1年半ぶりとなる“桜のジャージ”に袖を通す。19年はスーパーラグビーを戦うサンウルブズに開幕から参加してきた。
サンウルブズがオーストラリアへ遠征していた5月上旬に話を聞くと、「強度の高い試合をこなすことができているのは、すごくプラスになっています」と、充実感のにじむ表情を浮かべた。9月20日開幕のW杯については、「まだそこまで意識していません。いまはサンウルブズとして活動をしているので、そのなかで自分が毎試合ベストなパフォーマンスを出せるようにフォーカスしながらやっています」と、すぐに表情を引き締める。
茂野が定位置とするスクラムハーフには、11年と15年のW杯に出場した田中史朗がいる。トップリーグのサントリーで主将を任され、16-17、17-18シーズンの連覇に貢献した流大もいる。18-19シーズンのトップリーグを制した神戸製鋼の日和佐篤も、15年大会に続いてのW杯出場を狙っている。
日本代表でチームメイトになり、ポジションを争うライバルにもなる彼らとの距離感は、「ごく普通ですね」と笑う。「ライバルだからといって、蹴落とすみたいなところはないですよ」とさらに大きな笑みをこぼした。
「練習中はもちろんやりあったりもしますけど、グラウンド外ではアドバイスをしてもらったり、サインの確認をしたりします。ずっと代表に居続けている選手はすごいですね。フミさん(田中)は経験値があるので、ゲームのなかでのコントロールなどは学ぶところがあります。ただ、フミさんとの比較なら僕のほうが若いので、体力的なところは僕のほうがあるかな……と思うのですが、フミさんは負けず嫌いなので(苦笑)今度のW杯に僕が出られなかったとしても、日本代表には勝ってほしいですね」
自分のいない日本代表にも勝利を願うのは、偽りのない気持ちだろう。同時に、勝利の当事者のひとりになりたい、との気持ちは強い。
「大会を告知するキャッチコピーとして『4年に一度じゃない。一生に一度だ』というのがありますが、本当にそうだと思います。一選手としては何としても、どうしても、あの舞台に立ちたい。2017年に所属クラブを移籍したのも、そのためでもありましたし」
9月20日開幕のW杯で、日本はアイルランド、スコットランド、ロシア、サモアと対戦する。5月20日現在の世界ランキングはアイルランドが3位、スコットランドが9位、日本が11位となっている。17位のサモアと20位のロシアを退けるのは大前提で、前回ベスト8のランキング上位国のどちらかを下すことが、史上初の準々決勝進出のシナリオとなる。
「どちらかに勝つというよりも、両方に勝つ気持ちです。2015年のW杯を経て、日本代表に対する世界の見方が変わっていると思いますし、日本の選手も自分たちもできるという自信を持てるようになっている。自分たちのプレーをすれば勝てると、選手たちは思っていると感じます。僕もつねに、どんな試合でも勝ちたいです」
アジアでは初めての開催となるW杯で、全国の12会場を舞台とする祭典で、日本代表がプール戦と呼ばれるグループリーグを突破したら。4年前を越える熱狂が訪れるだろう。
茂野は静かにうなずいた。
「ラグビーの魅力をもっと多くの人に知ってもらいたい、という気持ちがあります。チケットを取るのが大変かもしれないですけど、ぜひスタジアムで試合を観てほしいですね。いまの子どもたちがラグビーを始めたら、次の世代にもつながっていくでしょうし」
昨年11月のロシア戦まで、茂野は日本代表で7キャップを刻んでいる。赤と白の横線のユニフォームを着ると、特別な感情が沸き上がる。
「スーパーラグビーを戦うのもすごいことですが、日本代表のジャージはまた一段と違うというか……日本を代表して戦うわけですから、臆病なプレーはできない。何が何でも勝たなければいけない。そのためにしっかりと準備をして、グラウンドでベストなパフォーマンスを発揮しないといけない。それができなければ、日本代表に残ることはできません」
日本代表候補は6月から国内合宿を重ね、7月以降はフィジー、トンガ、アメリカとのパシフィックネーションズカップに挑む。
W杯へのサバイバルは、茂野のチャレンジは、いよいよ最終段階へ入っていく。