『トップリーグ開幕!日本ラグビーの興奮と感動の続きが、いよいよ動き出した!』
スパイクが力強く芝生を噛む。
鍛え上げられた肉体が、正面からぶつかり合う。
あの興奮と感動の続きが、いよいよ動き出した──。
国内最高峰の社会人リーグとなるジャパンラグビートップリーグの2020シーズンが、1月12日に開幕したのである。
華々しいスタートとなった。東京、大阪などの全国6会場には、延べ11万人をこえる観衆が詰めかけた。昨秋のラグビーW杯を発火点とした盛り上がりは新たな年になっても衰えず、むしろ多くのファンがこの日を待ちわびていたことを広く知らしめることとなった。
熱を帯びているのは、スタンドだけではない。ピッチ上での戦いもホットだ。
前シーズン覇者で優勝候補筆頭の神戸製鋼コベルコスティーラーズは、同12位のキャノンイーグルスを50対16で退けた。元ニュージーランド代表で11年と15年のW杯優勝メンバーにして前シーズンのリーグMVPダン・カーターがスタンドオフに入り、19年W杯ニュージーランド代表で新加入のブロディ・レタリックがロックに、W杯日本代表ラファエレティモシーがセンターに、同じく桜のジャージを身にまとった山中亮平がフルバックでプレーする神戸は、前評判通りの強さを見せつけた。
一方のキャノンは、スクラムハーフ田中史朗が移籍加入し、スタンドオフ田村優との日本代表コンビが結成された。南アフリカ代表センターのジェシー・クリエルも加わり、チームに太い筋が通っている。ここから先の戦いぶりが注目される。
15-16シーズン以来の覇権奪回を誓うパナソニックワイルドナイツは、クボタスピアーズに34対11に快勝した。前半から27対3と力の差を示し、トライ数によるボーナスポイント1をプラスして最大勝点5を獲得した。
パナソニックはリーグ屈指のタレント集団だ。この試合では19年W杯日本代表からプロップ稲垣啓太、フッカー坂手淳史、プロップヴァルアサエリ愛がフロントローを形成し、ウイング福岡堅樹が先発出場した。さらにニュージーランド代表のサム・ホワイトロックがロックのポジションで、南アフリカ代表のダミアン・デアリエンディがセンターのポジションで、それぞれトップリーグへのデビューを飾っている。リザーブからもW杯日本代表の堀江翔太と松田力也、オーストラリア代表のデービッド・ポーコックが投入された。チーム内競争はし烈だ。
前シーズン7位のクボタは、19年W杯で日本代表のゲームキャプテンも務めたピーター・ラピース・ラブスカフニに加え、南アフリカ代表ドゥエイン・フェルミューレン、ニュージーランド代表ライアン・クロッティと、3人のW杯プレーヤーがスタメンに名を連ねた。オーストラリア代表のバーナード・フォリーも後半途中からピッチに立っている。元日本代表でキャプテンの立川理道らの実力者も揃っている。目標とするトップ4入りが現実的なターゲットであることを、この試合でも随所に示した。
前シーズン3位のヤマハ発動機ジュビロと、同4位のトヨタ自動車ヴェルブリッツの対戦は、息をのむクロスゲームとなる。
1トライ1ゴール差=7点差以内で勝負は推移し、後半の64分にヤマハが26対24と逆転する。ヤマハは73分にもトライをあげてリードを7点差に広げるが、トヨタもラスト2分のトライで2点差に迫る。コンバージョンのゴールが決まれば同点となるが、アンガス・シンクレアのキックはわずかに逸れた。
得意のジャッカルで知名度を上げた19年W杯日本代表の姫野和樹がキャプテンを務めるトヨタには、ニュージーランド代表主将のキアラン・リードが加わっている。惜しくも黒星スタートとなったが、「優勝しか考えていない」という姫野の言葉を裏付ける接戦でもあった。
予想外の黒星スタートとなったのは、前シーズン2位のサントリーサンゴリアスだ。東芝ブレイブルーパスとの“府中ダービー”は、前半29分にフランカーの西川征克が危険なプレーで退場となってしまう。
数的不利に立たされたなかでも前半は7対12と僅差に持ち込み、後半開始早々には日本代表フルバック松島幸太朗のノールックパス(股間を通したラストパス!)から同点へ持ち込むトライが決まる。
その後も新加入のオーストラリア代表サム・ケレビが、センターのポジションで圧倒的なフィジカルを披露していく。ケレビと松島のギリギリのディフェンスで相手の攻撃を封じるが、ひとり少ない劣勢を最後まで埋めきるのは難しい。終盤に失点を重ねて、19対26で敗れた。
立場を変えれば、東芝の白星発進ということになる。15-16シーズンの2位をピークに9位、6位、11位と上位に食い込めていない名門が、復活へ向けて力強い第一歩を踏み出した。
今シーズンの東芝は、6、7、8番の「バックロー」がストロングポイントになりそうだ。
サントリー戦では新加入のニュージーランド代表マッド・トッドが7番、19年W杯日本代表リーチマイケルが8番を着けた。彼らの存在感はあらかじめ想定されていたものだったが、この日はロックが本職のシオネ・ラベマイが6番を背負い、タテへの強烈な推進力をアピールした。トンガ出身の25歳は拓殖大学から加入した1年目の選手で、リーチも「勢いをつけてくれる選手」と高評価を与えている。
フランカーとNo8のポジションには、開幕戦を欠場した19年W杯日本代表の徳永祥尭もいる。「東芝のバックローには、いい選手がたくさんいる。チーム内の競争に勝っていかないといけない」とリーチは語る。
サントリーに競り勝った試合後、チームのパフォーマンスに10点満点で6の及第点をつけたリーチは、自身のプレーを問われると「4」と即答した。「ゼロからのスタート」と位置づける今シーズンのトップリーグに賭ける思いが、厳しい自己分析につながっているのだろう。それがまた、チーム全体の雰囲気を引き締めている。
敗れたサントリーも、俯いてはいない。
共同主将のひとりである19年W杯日本代表スクラムハーフの流大は、「結果は望むではなかったけれど、負けをしっかり受け止めて、次の試合で何をするのかが大事」と前を向いた。
2万人を超える観衆が詰めかけたスタンドの雰囲気については、「すごくありがたいです」と表情を緩めた。そのうえで、「色々な地域でトップリーグの試合はあるので、そういうところでもお客さんが入るように、エキサイティングな試合をする。レベルの高い試合を積み重ねていくことが、トップリーガーとして求められている」と、シーズン開幕前から発信してきた自覚と責任感をこの日も言葉にした。
日本代表のチームメイトでもある流の思いには、松島幸太朗も同調する。この日はフルバックで出場した彼は、リーチや流と同じくらい多くの声援を受けた。
「寒いなかで来てくれたお客さんにはすごく感謝しています。シンプルに嬉しかったです。こういったなかでプレーできるのは選手として幸せです。引き続きレベルの高いプレーをして、みなさんの期待に応えていきたい」
今シーズンの個人的な目標を問われると、自身2度目のMVP獲得をあげた。「どの試合でもクオリティの高いプレーをして、MVPを狙える位置にいくことが個人的な目標です。日本代表ももちろん、しっかり狙っていきたい。自分も食い込めるように、いまの位置で満足しないように」と、落ち着いた口調のなかに静かな闘志をのぞかせた。
各会場で盛り上がりを見せたトップリーグの幕開けだが、大切なのはいまある「熱」をいかに持続できるかだ。毎週末のピッチでハイレベルな攻防が繰り広げられていくことで、ラグビーの魅力が継続的に発信されることとなる。ひいてはそれが、ラグビーが広く根付いていくことにつながっていくはずだ。
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