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other2021.06.11

ボルダリング界を背負う“スピード・クライマー”楢崎智亜は、間もなく日本を席捲する

奈良県ではおよそ60人で、県内のランキングでは2484位。これが栃木県になるとたった10人で、県内ランクは5760位とかなりレアになってくる。ちなみに、日本全国ではおよそ6800人で、ランキングとしては2179位になるらしい。

何のことだか意味不明ですよね。すみません。楢崎という名字について、です。

基本的にサッカー畑で生きてきたわたしのような人間からすると、楢崎(ならざき)といえば、間髪入れずに「正剛」と続けたくなる。ご記憶の方も多いと思うが、奈良県出身、フリューゲルスやグランパスで活躍した元日本代表の守護神である。

ところが、小学3年生になる我が家の息子にとっては違う。

楢崎と言えば「智亜」。正剛さんと違って、こちらは濁らない「ならさき」さんだが、幼稚園のころからボルダリングを始めた息子にとっては、父親にとってのバース様にも匹敵する存在であるらしい。

ま、わからないでもない。

馬鹿なのか煙なのか猿なのか、とにかく高いところに登るのが大好きな息子は、お試しでやってみたその日から、ボルダリングにどハマリした。以来、依然としてサッカーにも野球にもまったく興味を示さない中、ボルダリング教室だけは嬉々として通っている。

これがサッカーや野球であれば、子供たちを教えているコーチのほとんどは、元選手というか、一線級からリタイヤした人がほとんどなのだが、ボルダリングの場合は、世界大会に出場するような選手が指導に当たっていることがある。息子の場合も、優しくて美人のコーチが日本代表に名を連ねており、「今度先生が出る大会の応援に行く!」と言い出したことがあった。

そこで、息子は生の楢崎智亜を目撃した。

ちなみに,付き添いでいったわたしにとっても、それは初めてのボルダリング観戦だった。息子にせがまれての、しぶしぶながらの同行だったことは白状しておく。

ところが、生で見るボルダリングの迫力は、ちょっと衝撃的だった。

最近ではテレビでもちょくちょくボルダリングの大会の様子が取り上げられるようになってきたが、はっきり言って、数あるスポーツの中で最もテレビ中継に向かないスポーツ、それがボルダリングかもしれない。

というのも、テレビはあくまでも二次元のメディアであるため、ボルダリングという競技の大きな見せ所の一つである「立体感」が恐ろしく伝わりにくいのだ。

基本的に、ボルダリングとは壁に敷設されたホールドと呼ばれる突起物を利用して上に登っていくという、極めてわかりやすく単純な競技なのだが、この「壁」が、まったくもって平坦ではない。というか、難易度の高いコースになると、ほとんど天井に張りついていくのと変わらないじゃないか、といいたくなるほど競技者の頭上に迫り出して来ているものもある。

ところが、これがテレビ画面になると、びっくりするほどその凄さ、難しさが伝わらない。たとえていうなら、一流のスキーヤーがスイスイ滑っている斜面の上にシロートが立ってみると、あまりの角度に足がすくむ──みたいな感じか。

会場に設置されたコースを見て、まずわたしが思ったのは「本当にこんなのを踏破できる人間がいるのか」だった。それぐらい、迫り出す壁の迫力は圧倒的だった。

そんなコースを、楢崎智亜は見事制覇した。幼稚園児だった息子の魂をメロメロにしての制覇だった。

楢崎智亜のどこがそんなに凄かったのか。幼稚園児だった息子は「カッコイイから」というだけだったが、ちょっと生意気になったいまは「1人だけ背中に羽が生えてるみたいだったから」などと抜かしている。

日本はもちろん、世界中のクライマーからも尊敬される存在になった楢崎は、「ニンジャ」と呼ばれることがあるという。ちょっと優秀な日本人アスリートをみると、やれ「スシ」だの「サムライ」だのとステレオ・タイプのニックネームをつけたがるのは欧米人の悪いクセだが、楢崎の「ニンジャ」に関しては、本気でぴったりのニックネームをつけたかったのではないか、という気がする。

その手の長さでは届かない、と思えるところに飛びつき、数本の指先だけで全体重を受け止めて次のホールドに移る様などは、まさしく、忍者そのものなのだ。

ちなみに、わたしのパソコンで「楢崎」と入力してみると、真っ先に出てくるのが「楢崎智亜」で、「楢崎正剛」は2番目だった。サッカーに比べるとマイナーだと思い込んでいたボルダリングだが、どうやら、若い世代では違ってきているらしい。

五輪で行なわれるスポーツ・クライミング競技では、様々な壁面を身体一つで登るボルダリングの他に、15メートルの壁面をロープをつけて登るリード、さらにはほぼ垂直な15メートルの壁をどれだけ速く登れるかを競うスピードの3種目による合計ポイントによって争われる。

日本国内にスピード専用のコースが少なかったこともあり、以前は楢崎もこの種目を苦手としていたが、いまでは世界屈指のスピード・クライマーと呼ばれるようにまでなった。

中でも、「トモア・スキップ」と呼ばれる飛ばし技、スタートから2つ目のホールドをつかまずに飛ばすテクニックは、いまや世界の一流どころがこぞって取り入れる必須の技術となった。

6月22日で25歳になった楢崎智亜には、まだまだ伸びしろがたっぷりと残されている。今後、しばらくはスポーツ・クライミングが五輪競技から外れることも考えにくいことから、その知名度は、さらに高まっていくことだろう。

楢崎と言えば、誰にとっても智亜。そんな時代が、きっとくる。

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