大人の社会見学「スノーピーク」編 第1回「感動品質が生まれる背景(1)」
「Snow Peak(スノーピーク)」
一度でもキャンプを経験したことがある人なら、その名前を聞かないはずはないでしょう。
1958年、金属加工で世界的に名の知れた新潟県・燕三条で生まれた、日本を代表するアウトドアブランドです。
なぜスノーピークは、そのクオリティを提供し続けているのか?
なぜスノーピークは、現在の成長を遂げてきたのか?
そしてなぜスノーピークは、キャンパーの心を掴んで離さないのか?
たくさんの「なぜ」を解明すべく、今回編集部は「大人の社会見学」として、スノーピークの真髄に迫ってまいりました。
全4回でお送りするスノーピークのすべて。
第1回・第2回は、スノーピークを父である創業者から引き継ぎ、日本を代表するアウトドアブランドに築き上げた現代表取締役社長、山井太氏のご息女であり、Snow Peak Apparelの代表デザイナー兼2018年2月からは執行役員企画開発本部長(※)としてクリエイティブ部門を統括している、山井梨沙さんにお話を伺いました。
スノーピークにいちばん近いところでスノーピークを見て、感じてきた山井さんだからこそ知っているスノーピークの真髄を、東京の情報発信拠点であるSnow Peak Tokyo HQ3からお届けします。
(※)役職は取材時のもの。2019年1月1日より代表取締役副社長CDO
――2018年で創業60周年ということですが、今日まで受け継がれている、スノーピークがいちばん大切にしてきたこととは?
1958年に創業して最初の30年は、私の祖父である先代が金物の問屋業のかたわら、自分の趣味だったロッククライミングのギアを地元の地場産業、燕三条の職人たちと作り始めたのがブランドのスタートです。そのあと、父である山井太が入社して社内起業としてキャンプの事業を立ち上げました。
それまでは卸の商売がメインでしたが、やっぱりユーザーさんから直接、生の声を聞かないといい製品・サービスは作れないということで、1998年からSnow Peak Way(スノーピークウェイ:SPW)という、当社のスタッフとお客様とが一緒のフィールドでキャンプを楽しむというイベントを始めたんですね。
SPWで実感したのが、「スノーピークの製品を通じて、自然の中で人と人、人と自然がつながり、自然のなかでコミュニケーションをとると、家族みたいに仲良くなれる」ということでした。
そこで改めて、「我々の会社は『人とのつながり』というところのために製品を作っている」ということに気づいたわけです。では、その製品づくりの“根っこ”の部分とは何か。
それは、「他社製品のマネは絶対にしない、ないものはゼロから自分たちで作る」というものづくりの精神だったんです。それが、創業当時から受け継がれ、培ってきたものであり、いちばん大切にしてきたことでした。
――幼少の頃からスノーピークの本質を見てきた山井さんだからこそ感じる「つながり」とは?
私も本当に小さい時から一緒に会社に出入りすることが多くて、社員のみなさんにお世話してもらいながら育ったという背景がありまして。さきほど申し上げましたSPWのイベントも、小さい時から家族で一緒に参加してユーザーさんに可愛がっていただいていたわけですが、いまだにその当時参加されていたユーザーさんがイベントに参加してくださっているんです。もう、ご近所さんみたいなお付き合いですよね。
とにかくユーザーさんとの距離が近い。スノーピークと関わっていなかったら出会えなかった人たちと、こうやって密なお付き合いが20年以上にわたって続いているというのは、自分の人生にとってもありがたいことだと思っています。
ユーザーさんと触れ合うことで、製品のフィードバックをいただくことはもちろんなんですけれど、ご家族のことだったりプライベートな悩み相談とか、私自身も「もう、梨沙ちゃん早く結婚しなよ?」みたいなことも言っていただいたりして(笑)。
いちユーザーさんというよりも「人と人とのお付き合いができている」ということが、何よりスノーピークで働いていることの喜びですね。
――スノーピークほどの規模になるとユーザーさんとの距離がどうしても遠くなりがちですが、それは御社にはないというか。
ないですね。
父はすごく本質的な考え方の人で、モノに対してとか会社の経営に対して、ユーザーさんに対して「本当に正しいと思ったことを正しいカタチで実行する」姿を私も小さい時から当たり前のように見てきましたが、今、改めて「そんな経営者、他にいないよ」と感じています。
社長の人柄が今のスノーピークに直結しているんですね。そういった部分をいちばん身近で小さい時から見てきたことは、自分がスノーピークに入社してから2014年にアパレル事業を立ち上げて、2018年からはギアとアパレルとカタログなど制作物もトータルでディレクションさせていただいている今、働き方にもやはり影響を受けていると感じます。
――そのように脈々と受け継がれてきたものを、アパレル事業を立ち上げるときにどう表現していこうと思われましたか?
大学からファッションを学ぶために東京に上京し、しばらくはアウトドアから離れた生活を都心で行っていました。しかし実際「自らもユーザーである」という立場でいえば、ファッションが好きな私が、アウトドアを改めて始めようと思ったときに、ファッション感度があるアウトドアのウエアが世の中になかったんですね。
それで、アウトドアの機能だけでなく、スノーピークが提案している自然とのつながりや、人とのつながりによって生活が豊かになるということを、ファッションから発信してみたいと。
洋服って365日、毎日着るものなので、「アウトドアを知るきっかけになる」というところでは可能性がいちばん大きいのではないか、と思ったわけです。
そこで、何かスノーピークを知るきっかけになり、且つファッションが好きな方でアウトドアをしない方でもスノーピークというブランドに触れるきっかけになるものを作りたいと思って、Snow Peak Apparelを2014年から立ち上げました。
――スノーピークのものづくりの精神や想いは、スタッフにも浸透していますか?
現在、アパレル・ギアを含めてクリエイティブ部門の統括をさせていただいているんですけれど、そこでスタッフと話しているのが、
「永久保証だけではなくて、感動保証も付けよう」
ということです。
アウトドア関連のギアというのは、保証が付いている製品でも1年保証とかが多いなか、スノーピーク製品には、永久保証が付いているんですね。それが感動品質、とずっと言われ続けてきたわけですが、もちろん既に、どのスノーピーク製品を使っても感動するものを生み出してきているとは思うのですけれど、改めてこれから生み出すものも含めて、すべての製品に「使って感動がないものは製品化しないようにしよう」ということを話していて。
例えば、アパレルであれば「雨をしのぐ」という目的があったとしても、それにプラスαで語れる要素がないとスノーピークらしくないよね、と。
先日も、2020年に向けた新しいギアの開発会議で「デザインが良くてもプラスαの驚きがないから、もう1回考え直してみよう」と話が出ていました。「スノーピークらしさ」というのは、何かしらのカタチでプラスαがないと絶対に感動保証に繋がらないよね、ということを念頭に議論がされています。
――感動保証があってこそ、スノーピークということですね。
そうですね。ユーザーさんからも「スノーピーク製品って、ズルいんだよ!(笑)」ってよく言われるんです。もちろん、いい意味で。何を使っても驚きと感動があるからズルい、と。最高の褒め言葉ですよね。
第2回「感動品質が生まれる背景(2)」
につづく
■プロフィール
株式会社スノーピーク
代表取締役副社長 CDO
山井 梨沙
新潟県出身。スノーピーク創業者の山井幸雄氏を祖父に、現代表取締役社長である山井太氏を父に持つ第三世代。生まれたときからスノーピークが身近にあり、職場が遊び場だった幼少時代の頃から「本当に正しいと思ったことを正しいかたちで実行する」という、スノーピークの本質を見て育つ。
2014年からSnow Peak Apparelを立ち上げ、「HOME⇄TENT」をコンセプトに日常とアウトドアとの境界線のない「生き方にいちばん似合う服」を発信し続けている。
また、2018年からは新たに「LOCAL WEAR」プロジェクトを立ち上げ、日本各地の魅力的な着る文化に光をあて、今を生きる人々につなぎ、着ることで、その土地の物語になる服づくりをスタート。地方で紡がれてきた伝統産業の後継者不足問題に意識を向け、Snow Peak Apparelで採用されている生地工場の見学や職業体験などをしながらその本質を伝えていく「LOCAL WEAR TOURISM」も開催した。
Snow Peak Apparel
https://snowpeak-apparel.com
LOCAL WEAR by Snow Peak
https://www.snowpeak.co.jp/sp/localwear/
■取材場所
Snow Peak Tokyo HQ3
https://www.snowpeak.co.jp/
2018年に創業60周年を迎えた、日本を代表するアウトドアメーカー。「自らもユーザーである」という、創業者山井幸雄氏のDNAを受け継ぎ、「人生に、野遊びを。」のコーポレートメッセージのもと、自然と共に生きることにより人間性を回復する、自然指向のライフスタイルの提案、実現を使命に成長し続けている。
RECOMMENDED POSTS
この記事を見た方におすすめの記事