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running2023.01.06

シューズから見た2023年箱根駅伝(総評版)

■新春恒例の箱根駅伝開催!

さて、今年も新春恒例の東京箱根間往復大学駅伝競走こと通称「箱根駅伝」が開催されましたね。私も地元の4区と8区の沿道に行きましたが、すごい応援の人でした。テレビで観戦された方も多いのかと思います。

レースは前半、駒澤大学、中央大学、青山学院大学が、抜きつ、抜かれつの三つ巴の争いを繰り広げましたが、後半は全く危なげない王者チームの走りで、駒澤大学が、出雲駅伝、全日本駅伝を含めた、大学駅伝3冠を成し遂げましたね。

ちなみに、筆者の我が母校、東海大学は、苦戦が予想された通りの結果になってしまいましたが、2区のエース石原選手が見せ場も作ってくれました。来年に期待したいです。

そして、今回も、もちろん、各大学の選手の足元、シューズをチェックしてきましたので、『シューズから見た2023年箱根駅伝(総評版)』をお届けしようと思います。


■2021年をピークにナイキが独占状態

今のシューズ事情を語るにはまず、この出来事を知っておく必要があります。2017年、そう、あの世界記録保持者E・キプチョゲ選手ら3名に人類史上初フルマラソン2時間切りのために開催された「Breaking2」、そして彼らのために作られた「NIKE VAPORFLYシリーズ(ナイキヴェイパーフライシリーズ)」が各レース、市場と席巻したところで全ては始まります。

かつての箱根駅伝では、それまで合わせて6割近くの圧倒的なシェアを誇ったアシックス、ミズノ。その両者のシェアにも2018年から変化が起きて、ナイキが徐々にシェアを伸ばし、そして立場は逆転しました。

2021年の大会では、ついに210名中201名、95.7%がナイキを着用するという言わば“学生指定シューズ“状態になり社会現象化しました。昨年は73.3%とシェアをやや落とし、落ち着いた形になって、さあ、今年。それらはどうなったのでしょうか。


■ナイキシェアが減少も圧倒的なシェアキープ

結論から言うと、154人から130人に減少、シェアは 10%強落として、61.9%となりました。事前の予想通りの結果、大きく落とすわけでもなく、依然、圧倒的なシェアを保った結果と言えるでしょう。

※赤字が2023年

ちなみに優勝した駒澤大学は、全員がナイキを着用していましたし、かつてのアシックス、ミズノ時代のように当日の駅伝をご覧なられた方の印象は、シンプルに“ナイキが多いなあ“、という印象ではなかったかなと思います。

反面、他のブランドの商品クオリティーにも正当な評価がなされた結果でもあるとも感じました。

筆者が思うに実際機能性の差はなくなっていますし、ブランドの間の競争の原理から良い商品が生み出されるベクトルのもと、ナイキの減少分は、必然的に、アディダスとアシックスが吸収、それぞれ伸長、18.1%、15.2%となりました。


■アディダスが復活、世界の潮流通りの結果に

アディダスは、日本体育大学では10名中、6名が着用するなど、全体で38名の選手が着用しました。また、着用選手が3区間で区間賞を獲得しました。

※中にはADIZERO TAKUMI SEN 9を履く選手も


そのほとんど、8割強のランナーが着用していたのが、ADIDAS ADIZERO ADIOS PRO 3(アディダス アディゼロ アディオス プロ 3)でした。ほとんどの選手がお揃いのライトグリーンで統一されていて目立っていましたので、お気づきになった方もいらっしゃるかもしれません。

実は、ワールドマラソンメジャース6大大会(東京マラソンを残して)で今シーズン異変が起きていて、ベルリンマラソンのE・キプチョゲ以外、他の大会での男子優勝者はすべてアディダス着用の選手となっているのです。

SNSが当たり前の存在の令和の学生にとっては、そんな世界ニュースもキャッチしているのでしょう、それに比例したような伸長であったと感じました。


■アシックスが伸長、2区間で区間賞獲得

アシックスは、同社のユニフォーム着用の帝京大学が10名中、6名と最多など32名の着用、15.2%となりました。2021年の屈辱の着用者ゼロからの大きな復活と言えるでしょうね。

※このカラーリングは目立っていました


ちなみに、区間賞も復路で2名の選手が獲得。特にコミュニケーションを密に取っている選手は、お揃いのグラデーションカラーで統一されていて、今大会グリーンカラーが多かった中、シューズチェックもやりやすかったですね。

彼らが履いていたのが、ASICS METASPEEDシリーズ(アシックス メタスピードシリーズ)です。私自身もフルマラソンで履いていますが、機能性も王者と差がない印象、また日本人はジャパンブランドが大好きですから、良いと分かれば、100回大会の来年は更なる伸長があるかもしれませんね。


■明暗分かれた他ブランド、プーマ伸長

まずは、プーマの伸長をあげるべきでしょうね。もちろん、ブランドとしてはもっともっとシェアを伸ばしたいとは思いますが、昨年9区でのサプライズ着用から、全体シェアは3.3%こそあれ、今年は7名と着実に伸長したと言っていいでしょう。

彼らが履いていたのは、PUMA DEVIATE NITRO ELITE 2 EKIDEN(プーマ ディビエイト ニトロ エリート2 エキデン)とPUMA FAST-R NITRO ELITE EKIDEN(プーマ ファーストアール ニトロ エリート エキデン)の2種類でした。 

特に往路では全区間で1名着用するという結果は、速く走るための機能性に神経を尖らせた選ばれしアスリートが着用するわけですから、確実に商品自体の評価があがってきている証拠ですね。ブランド間の機能性の差が無くなっている象徴的な出来事でしょうね。

直前に発表されたFASTER PACKのアシンメトリーのカラーはとてもデザインも良くカッコ良く、そして、踵に箱根駅伝のトレードマークであり、日本の象徴の富士山アイコンが付くまさに箱根駅伝仕様のモデルでした。


■明暗分かれた他ブランド、アンダーアーマーが7ブランド目に

また、箱根駅伝参入7ブランド目に最終区間で滑り込んだのが、ナント、アンダーアーマー、これはサプライズ着用でした。

学連選抜10区の選手がアンダーアーマーの日本未発売モデル、FLOW VELOCITI ELITE(フロー ヴェロシティ エリート)を着用、シューズ自体、これから発売される商品で、ブランドとしてはいい弾みになったことでしょう。

対照的にニューバランスとミズノは1名のみと苦戦を強いられました。

1/2の箱根駅伝当日に情報解禁されたWAVE REBELLION PRO(ウエーブリベリオンプロ)は、着用ゼロ、発売直前まで情報統制をする戦略は実りませんでしたが、商品の機能性は高いだけに次回には期待できるでしょう。

ニューバランスも、同社スーパーシューズのFuelCell SuperComp Elite v3(フューエルセル スーパーコンプ エリート ブイスリー)自体の発売が遅れに遅れてしまって、箱根駅伝までに商品への信頼感をしっかり構築できなかったのが痛かったかもしれません。こちらも次回は期待したいです。


■ナイキは減少も見方を変えると…

ちょっと向きを変えて見てみましょう。大学別の着用ブランドシェアで見ると、上述通り、1位の駒沢大学、そして2位の中央大学がチームウェアのブランドであるナイキを10人全員が着用しました。

また、9名着用の大東文化大学、早稲田大学、東海大学、8名着用の青山学院大学、東洋大学、明治大学と、これら8校では圧倒的なシェアであることが見えてきますね。

※赤字は同タイムの同区間順位、7区と8区は区間1位が2名


■区間順位(1位~3位)から見たランナー着用シューズブランド(※速報)

※1区は学連連合が3位アディダスも参考記録

※3区、7区、8区の赤字は同タイム同区間順位


また区間順位(1位~3位)から見たシューズの種類(※速報)は下記の通りでした。

※1区は学連連合が3位アディダスも参考記録

※3区、7区、8区の赤字は同タイム同区間順位


そして、各区間の区間賞を獲得した選手の着用シェアでもナイキが圧倒。

その獲得率は実に7割になっています。区間3位までに広げると、シェアはさらに伸びて、80.0%とまだまだ独占的な状況は変わっていない側面も見えてきます。

また、6区の下りでもAlphaFlyを着用した、駒澤・中央大は区間1.2位と、差を大幅に変えず走れたことが優勝、2位という結果にも繋がりました。

ちなみに区間賞は伸長著しいアディダスが3つ、アシックスの選手が2つ取ったことも追記しておきます。


■学生ランナーの多様性を感じた

ナイキがデータでは圧倒しつつもシェアを減らしたのは、単純に大学によってはブランドがバラつき傾向にあるのも一因、この数年なかった現象です。ちなみに、ナイキ着用最少チームは帝京大学で、1人に象徴されています。

その帝京大学も含めて東国大、創価大、國學院大学、城西大学、立教大学では着用者が4ブランドに分かれ、学連選抜では、実に5ブランドに分かれました。

それを表す象徴的な出来事が、プーマの往路全区間で着用者ありや、アンダーアーマーが10区で7ブランド目デビューだったと言えるでしょう。

NIKE ZOOMX VAPORFLY NEXT%2のモデルだけで実に全体シューズ着用の実に4割強を占めるというような、まさに長距離レースでのスタンダードシューズとして定着感があるその一方で、実に若い学生ランナーらしく興味が分散したのは好感をもちましたし、その他のブランドの“スーパーシューズ“が正当に評価されはじめているという側面も見えはじめていると言えるでしょう。


■先祖返り?薄底レーシングを履くランナーも

かつてのソールが薄い、金栗四三さんの発明したカナグリ足袋のマインドを受け継ぐJAPANESE RACING FLATが着用シェアを圧倒しました。それが、NIKE ZOOMX VAPORFLYシューズ、いわゆる“厚底レーシング”がここ数年箱根駅伝では圧倒、そしてスタンダード化しているという状況です。

しかし今大会、一部の選手でいわゆる“NEW薄底スタイル”とも言えるレースシューズを選択した選手がいたことは面白いトピックだったと言えるでしょう。

ナイキ着用130人中では、約7割弱が、NEWスタンダード「ZOOM X VAPORFLY NEXT%2」だったのですが、その陰で2名は、ZOOMX STREAKFLY(ズームエックス ストリークフライ)を着用していました。

アディダスでも38名中、6名がADIZERO TAKUMI SEN 9(アディゼロ タクミ セン9)を着用していて、これらは、NEW薄底スタイルとも言える、海外での5K・10Kロードなどショートディスタンス向けに作られたモデルですね。

自分自身の着用感を信じての選択はとても自然なこと、早稲田大学5区選手がストリークフライを着用、体を傾き続けるほぼ登りオンリーのコースというこの区間の特殊性からも、路面の接地感を期待してこのシューズにするのはアリだと私も感じました。


■ジンクスをかつぐランナーが散見

あともう一つ面白いトピックとしては、ジンクスなのか、好みなのか、2区で区間賞の中央大学吉居選手はじめ、AIR ZOOM ALPHAFLY NEXT%(エア ズーム アルファフライ ネクストパーセント)のシリーズとしては前モデルにあたるバージョン1の方選択したランナーがナイキ着用者中、1割強いたことでしょう。

ちなみに、前出、世界記録保持者のE・キプチョゲ選手がINEOS159で、1時間59分40秒の人類史上初のフルマラソン2時間切りを達成したのは、むしろこちらのバージョン1になります。

ナイキ着用者の4割がVapor、3割がAlphaのバランスですが、ZOOMX VAPORFLY NEXT%の場合、バージョン1を履く選手は皆無だけに対照的な出来事と言えますね。

AIR ZOOM ALPHAFLY NEXT%シリーズは2区で最多の7名が着用する一方、逆に山登りはゼロであったように、コース状況なども加味して選択は割れました。

アディダスでも前モデルにあたる黄色のADIZERO ADIOS PRO2を3区法政大学の選手着用、ミズノでは4区創価大学の選手も新商品のWAVE REBELLION PROではなくて、同社のレーシングフラットカスタムを着用、といったナイキと同じような現象は他のブランドでも垣間見られました。


■2024年の大会はどうなる?

さて、箱根駅伝は次回、記念すべき100回大会になります。出場校枠が拡大されて関東の大学以外にも出場の門戸が開かれます。それを機に、シューズの選択はさらに多様化の方向に向かってほしいですね。

例えば、2022NYCM(ニューヨークシティーマラソン)では、女子で1位はなんとアンダーアーマーでしたし、6位はOn、7位はHOKAを着用していますからね。

プロダクトとしては良いものをリリースしているサッカニー、HOKA、On、ブルックス、同じく確実に良いものを生み出しているミズノ、ニューバランスも含めたこれらのブランドにも参入のチャンスありだと思います。

ニューバランスのFuelCell SuperComp Elite v3(フューエルセル スーパーコンプ エリート ブイスリー)は、先行してアメリカではリリースされて、このシューズの機能性もすでに話題になってきています。

SNS時代の令和の学生に壁はないでしょう。海外のレースや国内での着用例が増えれば、箱根駅伝の参入ブランドももっとバラエティーに富んでくるはずです。

ちょっと早い(だいぶ早い!)ですが、来年の選手の足元、シューズの着用事情も今から楽しみですね。



 


<著者プロフィール>

ランニングシューズフィッティングアドバイザー

藤原岳久(F・Shokai 【藤原商会】代表)


日本フットウエア技術協会理事

JAFTスポーツシューフィッターBasic/Advance/Master講座講師

足と靴の健康協議会シューフィッター保持


・ハーフ1時間9分52秒(1993)

・フルマラソン2時間34分28秒(2018年別府大分毎日マラソン) 

・富士登山競走5合目の部 準優勝  (2005)

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