シューズから見た2024年箱根駅伝(総評版)
■箱根駅伝100回目の記念大会、優勝は青山学院大学
新春恒例、第100回目の記念大会であった東京箱根間往復大学駅伝競走こと通称「箱根駅伝」は、駒澤大学の2年連続の大学駅伝3冠では?という下馬評を覆す、青山学院大学のまさに圧勝でした。
区間賞5つにチームは往路新記録、総合記録でも大会新記録と、3区で首位に立つと最後までそれを譲らず、他大学の追随を許しませんでしたね。
2位は駒澤大学、3位はチーム最高成績の城西大学で、私の母校の東海大学は最終区に入るところまではシード校入りできる10位でしたが、最終区で競り負けて11位。ただ予選会10位通過のチームが頑張りました。
さて、今年は記念大会ということで全国の大学に門戸を開いて予選会を開催しましたが、結果的にはすべて関東の大学になりました。いつも大会では編成される学連選抜が今大会ではなく、シード校+予選会を勝ち抜いた13校の合計23校が出場しました。
ということで、毎年恒例になった「シューズから見た箱根駅伝」、今回は全230名のランナーの足元は一体どうなっているのかをまた調査しましたので、いつものように探っていきますよ。
■ナイキがシェアナンバーワンを譲らず
開催年から見たランナー着用シューズブランドシェア
ここ数年、選手の圧倒的なシューズシェアを誇ってきたナイキは、2022年大会の73.3%、前回61.9%と徐々にシェアは下降傾向。そして今回42.6%となりました。それでも230名のランナー中、4割強のシェアを獲得したシューズは箱根駅伝を観戦した方々の印象に強く残ったことでしょう。
基本的に、最新モデルのVaporfly 3 (ヴェイパーフライ 3)やAlphafly Next%2(アルファフライ ネクスト% 2)をはじめ、箱根駅伝翌日に限定発売されるAlphafly 3 (アルファフライ 3)を着用していました。
大会当日は最近発売したEKIDEN PACKのアシンメトリーカラーのヴェイパーフライ・アルファフライが目立つ中、前モデルVaporfly Next%2(ヴェイパーフライ ネクスト% 2)、初代のAlphafly Next%(アルファフライ ネクスト%)など旧モデルにこだわるランナーも目立ちました。
7区区間賞の中央大学吉井選手はVaporfly Next%2でしたし、8区区間賞の青山学院大学塩出選手は初代アルファフライと、特に旧モデルとなるNext%2はかなり着用するランナーが目立ちました。履き心地に好みやジンクスを重要視した選択であったのかもしれません。
■アシックスがアディダスを逆転
前回大会、仲良く伸張したアディダスとアシックスは、今大会ではアシックスが逆転、57足、24.8%と15.2%から大きく伸張し、ナイキに次ぐ勢力になりましたね。
大会中、白地に赤のミッドソールのNEWカラーのMETASPEED SKY+とMETASPEED EDGE+の2種類が目立っていました。その他、プロトタイプモデルや旧モデルを着用する選手もいました。
しかも、接地感が欲しい登りの5区はMETASPEED EDGE+、前足部にクッションが欲しい下りはMETASPEED SKY+と選び分けしている選手がいたのは印象的です。
特に9区に関しては、個人の区間順位で1位から5位までの選手がアシックスを着用するなど着用数だけでなくその機能性も証明される結果になったと思います。
ちなみにワールドマラソンメジャーズ6大会での表彰台シェアはざっくりいうとナイキ、アディダス、アシックスの順です。
それが日本の箱根駅伝で今回のような結果になるのは機能的に同じようなシューズであれば、ナショナルブランドであるアシックスを履きたいという思うランナーも多かったのではないでしょうか。
■アディダスはシェアキープ
今回本大会にあわせてADIZERO EKIDEN COLLECTIONをリリースし、スカーレットレッドカラーが目立ったアディダスは、ほとんどのランナーがアディゼロ アディオス プロ 3、アディゼロ タクミ セン 10を着用しました。
そして2区、3区区間賞の青山学院大学の2人をはじめ、ランナー数名がフルマラソン女子世界最高記録シューズ、その販売価格8万2500円のアディゼロ アディオス プロ エヴォ 1を着用するというサプライズがありました。
特に青山学院大学の太田選手はいくら下りの基調の3区21.4kmだったとは言え、ハーフマラソ(21.0975km)日本最高記録を上回る59分台は、驚異的なタイムと言っていいでしょうね。
これはシューズの力と言うよりシューズとランナーの力のコラボレーションの極みであって、シューズを買っただけでマネできるものではないと付け加えておきましょう。
また、アディダスも、アシックスのMETASPEED SKY+、METASPEED EDGE+のような区間による選び分けありました。特殊区間の5区、6区では接地感覚を重要視したアディゼロ タクミ セン 10を選ぶ選手が散見。青山学院大学6区の野村選手も着用して区間2位の快走をしましたね。
そしてこちらもナイキアスリートのように2区区間3位、10区区間2位の選手は旧品番のアディゼロ タクミ セン 9を着用して好成績を上げています。履き心地の好みやジンクスを重要視したのかもしれません。
■プーマが大きく伸張
2022年1名、昨年は往路では各区間1人は着用する7名となって話題を振りまいたプーマは、本年それを超える20足(8.7%)となり、ナイキ・アシックス・アディダスに次ぐ第4勢力となりましたね。
選手が着用したシューズは日本で先行限定発売されたFAST-R ニトロ エリート 2と未発表のプロトモデルの2種類でした。
2区間で着用選手が区間3位に入り、単純に着用者が増えただけでなく機能性を証明するような結果も出ましたね。こちら発売が楽しみです。
プーマウェアを着用の城西大学は4人、立教大学は2人がシューズを着用、チームウェアはプーマではないですが、プーマのシューズを履いた選手の最多チームは駿河台大学の5名でした。
特に総合で3位に入った城西大学のチーム最高成績を支えたと言っても過言ではないと思います。
■ミズノは微増の5名
その4大勢力に続くのが、昨年苦渋を舐めさせられたミズノ。5名と少ない着用者であるものの、ミズノウェアを着用した国士舘大学の選手がシューズを着用してもう一歩でシード校というところまで迫る好成績を支えました。
ちなみに、選手着用のシューズは、ソールが一部変更したプロト仕様のようですが、本大会に向けて、直前に発表されたにウエーブリベリオンプロ2、ウエーブリベリオンフラッシュ2などのウエーブリベリオンシリーズにも弾みがつく結果になりましたね。
また昨年、箱根駅伝参入7番目のブランドとなったアンダーアーマーが山登りで最新モデルではなかったのですが1名着用をキープしました。
同じくニューバランスも昨年同様に1名でしたが、着用した帝京大学小野選手が区間2位と好成績を上げましたね。
彼が履いていたモデルは、10月に行われたマラソングランドチャンピオンシップ(MCG)で2位に入り五輪代表になった九電工の赤﨑選手が当日着用したものと同じ、FuelCell SuperComp Elite v4(フューエルセル スーパーコンプ エリート v4)でした。
■今年新規参入したブランドは3つ
今年は箱根駅伝に新規参入したブランドが3つあったことも大きなトピックでした。
まず、早速スタートの1区でスイスのブランド「オン」を着用する選手が出現、駒澤大学の佐藤選手をはじめ合計で3名着用して、みごとに箱根駅伝参入第8番目のブランドとなりました。
佐藤選手だけが発売されていないプロトタイプシューズでしたが、その他の2人は市販されているCloudboom Echo 3(クラウドブーム エコー 3)を着用していました。
続く2区ではアメリカではランニングシューズNO.1シェアのブランド「ブルックス」のHyperionElite4(ハイペリオンエリート4)を着用する選手が出現し、第9番目のブランドとなりました。
また、3区では、同じくアメリカのブランド「ホカ」にも着用者が出て、6区下りの選手とあわせて2名、0.9%のシェアを獲得。シューズは、どちらも市販されているROCKET X 2(ROCKET X 2)でした。
箱根駅伝は、選手にとってはもちろん大きなハレの舞台であることは当たり前ですが、ブランドにとっても新春から全国的に注目度が高いこの大会。この3ブランドにとっても、大袈裟ではなく歴史的な一歩を踏み出した2日間だったと言っていいでしょうね。
■まだまだシューズシェアを圧倒ナイキ
2024年の箱根駅伝はここまで書いてきたようにナイキのシェアが下降傾向、アシックス、プーマが躍進、アディダスがキープしたという状況でしたが、個人の区間順位1位~3位のシューズシェアを見てみると違う印象になります。
それを見ると、まだまだシューズシェアにおけるナイキの存在感は高いです。区間賞は10区間中7区間がナイキ、区間1位から3位でも50%と半数を占めているものナイキでしたね。
区間順位(1位~3位)から見たランナー着用シューズブランド(※速報)
区間順位(1位~3位)から見たシューズの種類(※速報)。赤文字のシューズは未発売のモデル(詳細の確認がとれた場合、情報は更新致します)。
逆に大幅躍進したアシックスは今回獲得したシューズシェア25%弱に対して、区間1位~3位でのシェアはそれを下回る13.3%でした。
一方、アディダスはシューズシェアが18.3%の前年並みの水準であったのに対して、実は区間1位~3位でのシェアは23.3%と大幅躍進。アシックス VS アディダスは、ここではアディダスが勝利という感じですね。
とにかく、シューズ選びにも多様性が出てきた前回大会から、100回大会ではまた1歩、2歩も進んだ印象を持ちましたね。
それだけ各ブランドで発売されているスーパーシューズの機能性に差がなくなったことも大きい要因の一つかもしれません。
そして、“ナンバーワンよりオンリーワン“ 230名いる学生ランナーの中でそんな存在感もそこにもあっていいはずですからね。
さて、最後に箱根駅伝の選手をみてランニングモチベーションが高まった方にアドバイスをしておきたいです。くれぐれも選手と同じものではなくて、現状の自分の体力レベルやそして走るスピードに合ったランニングシューズを選んでくださいね。
選手もいつもあんなスピードで走っているわけではないことをお忘れなく。普段履いているランニングシューズは用途によって使い分けています。ハレの日のシューズもあればトレーニングにいそしむ為のシューズもあるのです。
さて、シューズから見た箱根駅伝、楽しんでいただけたでしょうか。また来年101回大会も今から楽しみですね。
では、来年もお会いしましょう。
<著者プロフィール>
ランニングシューズフィッティングアドバイザー
藤原岳久( FS☆RUNNING(旧 藤原商会)代表)
日本フットウエア技術協会理事
JAFTスポーツシューフィッターBasic/Advance/Master講座講師
足と靴の健康協議会シューフィッター保持
・ハーフ1時間9分52秒(1993)
・フルマラソン2時間34分28秒(2018年別府大分毎日マラソン)
・富士登山競走5合目の部 準優勝(2005)