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running2025.01.10

シューズから見た2025年箱根駅伝(総評版)

新春恒例の東京箱根間往復大学駅伝競走こと通称「箱根駅伝」の2025年は、いきなり1区で先制パンチの区間賞、3区も区間賞でダメ押し、予選会から出場も中央大学が往路終盤までリードして見せ場を作りましたね。しかし、その後は大本命青山学院大学が往路5区で逆転、翌日の復路も6区区間新をはじめ3区間で区間賞と圧倒的な強さを発揮してそのまま逃げ切り8回目の総合優勝を果たしました。

そして、6区 区間新記録を達成した野村選手をはじめ優勝した青山学院大学の選手は、真っ赤な3本ラインのADIZERO ADIOS PRO 4(アディゼロ アディオス プロ 4) 以下:ADIOS PRO 4)が、そして、2区で快走した黒田選手、4区の太田選手などは、ブラック&ホワイトのシンプルなデザイン、ADIZERO ADIOS PRO EVO 1(アディゼロ アディオス プロ エヴォ 1) 以下:ADIOS PRO EVO 1)がその足元に、この2足こそ箱根駅伝2025のシューズ事情を象徴する2足だったと言っていいでしょうね。

そうです、今大会では、ナイキに代わって、4割弱のシェアでアディダスが念願のシューズトップシェアになりました。

この時期全国で注目集める毎年恒例の箱根駅伝、レースの結果やランナーのドラマにはもちろん引きつけられるわけですが、その足元、選手が着用しているシューズとブランドのドラマにも是非注目してみるのもオススメです。

言わばただ走るだけという長距離競技では、シューズこそが唯一の道具。日々トレーニングに励んでこの日を迎えるランナーと、そして、シューズの進化や信頼感などが合わさって、箱根駅伝特有の感動を生み出しているという部分も実は少なくないことを力説しておきましょう。

では早速、箱根駅伝2025のシューズ事情はどうだったか、詳しく見ていきましょう。


■アディダスが念願のトップシェア

青山か、駒澤か、はたまた國學院か、優勝はどこだ?と言った類の記事は、勝負事である以上当然たくさん見かけますが、実は彼らが着用するシューズのシェアも消費者はもとより、関係者にとってはとてもナーバスに戦況を見守っているわけです。アマチュアの学生スポーツとは言え、何しろ箱根駅伝は全国が注目する駅伝、大きなコマーシャル効果がありますからね。

そんな中、今年はアディダスがトップ、アシックスが続いて、わずか5足差と僅差であったものの3位がナイキでした。そして、プーマが4番手と昨年同様に存在感を見せましたね。


■開催年から見たランナー着用シューズブランドシェア(※速報)

アディダスは1、2、3区、復路は6、9、10区と6区間で区間内ブランド別でトップシェアであったように、足数も昨年の42足から76足にジャンプアップ、上述のように、シェアも20%弱から40%弱にまで伸びて、まさにアディダスな年になりましたね。

実は、出雲駅伝、全日本大学駅伝、箱根駅伝予選会を経て、出場校やメンバーが固まって、事前予想では既に今年は、アディダスのトップシェアが大方な予想となっていました。

それは、例えば、2024年の東京マラソンも含まれるワールドマラソンメジャーズ6大大会で、男女優勝者12名のうち半分をアディダスアスリートが占めたように、とにかく、アディダスを着用した選手の実績が大会前にすでにあったからです。

特に500ドル、82,500円という驚愕のプライスで発売されたADIOS PRO EVO 1を着用したアスリートが世界中で活躍がしていることが大きいはずです。その証として、今大会も全モデルを含めて一番選手の着用が多かったモデルはこのモデルなのです。

つまり、アディダスのこの勢いはある程度は事前に予想でき、そしてそれには理由があったというわけです。


■区間賞もアディダス着用者が独占

何しろ、販売方法や価格などの話題性、素材の選定、そして、その製造方法など知恵と技術を絞って、各ブランドのスーパーシューズが200gを切るぐらいの重量に対して27.0cmでなんと138gという超軽量なモデルがADIOS PRO EVO 1。

それでいて約40mmの分厚いソールとアディダス最新テクノロジーが搭載された厚底スーパーシューズ、さらにそれで結果も出ているわけですから、「これを履けば速く走れるかもしれない」「これを履かないとライバルに勝てない」というようなある種の引きの強さこそが今回のシェアトップにつながったと言っていいでしょう。


■区間順位(1位~3位)から見たランナー着用シューズブランド(※速報)

実際、今大会は10区間中、6区間でアディダス着用者が区間賞を獲得、特にエース区間の2区では区間新記録を1位から3位までがADIOS PRO EVO 1が独占と、まさに白地にブラックラインのシューズが目に焼き付きましたね。

また区間賞だけ見ると6区間中4区間は、真っ赤なスリーストライプのADIOS PRO 4着用者で、このモデルもADIOS PRO EVO 1から強くインスパイヤされ、前作ADIOS PRO 3から圧倒的なソフトフィーリングのクッションにドラスティックに生まれ変わったモデル、今回の選手間でも超軽量のADIOS PRO EVO 1か、ソフトバウンドのADIOS PRO 4にそのシェアも2分した印象です。

接地感の必要な山登り区間などでTAKUMI SENシリーズ着用者が5名ほどいましたが、76足の9割強はADIOS PRO EVO 1とADIOS PRO 4で占められたことからもそれははっきりしますよね。


■ナイキは3位もサプライズあり

今回ナイキのシューズシェアが減少するのは今までの圧倒的なシェア故の必然だったかもしれません。

そういう意味で、今回、発売前のVaporFly Next% 4(ヴェイパーフライ ネクスト% 4 以下:VaporFly 4)を選手に履かせてきたのは大きな意味を持ちます。

スーパーシューズ開発のテスト過程で使用するデザインをモチーフに作成されたプロトタイプカラーは、ユニフォームのスポンサーである駒澤大学、中央大学、東洋大学を中心に23名が着用、このことで着用したランナーとの結びつきも強まりますし、第一その機能性を評価してのレースでの使用であったことは間違いないでしょう。評価の厳しいナイキ着用者も納得の出来ということになれば、発売されるVaporFly 4も自ずと期待してしまいますよね。実際、そのVaporFly 4を着用した1区中央大学 吉井選手と5区の青山学院大学 若林選手が区間賞を獲得するなどその実力を発揮された印象です。

ちなみに、VaporFly 4以外のほとんどは既製品のAlpha Fly 3 プレミアム(アルファフライ 3 プレミアム)に統一されていました。ちなみに、このシューズ、執筆時現在の男女のフルマラソンの世界最高記録達成シューズのカラー違いです。



■アシックスは連続シェア2位

昨年同様の2番手のアシックスは、足数で昨年をわずかに下回る54足であったものの、ブランドのシェアは伸ばしました。ちなみに、箱根駅伝をテレビでご覧になっていた方は、この54名は同じシューズを履いているように見えたかもしれません。白ベースにピンクやイエローカラーが散りばめられた独特なカラーのモデルです。しかし、実はコレ、旧モデルの1足、現行モデルの数足を含めて、全部で6種類あったのですよ。


詳しくはベールに包まれていて分かりませんが、ナイキ同様にブランドの次世代商品をコミュニケーションが密な大学の選手に提供して、選手との関係性を強化、実走して実績も事前に作りたい、そして、見た目は現行商品とそっくりにしてセールスにも繋げるという三方よしのような作戦のように筆者は思えました。

その中でも限定した5名の選手はMZ TYPE-1(世界陸連シューズリストの名前を引用)というまだまだベールに隠れたモデルを着用、ブランドとしては、現行商品のその先も見据えたかなり野心的な戦略だったと感じますね。

また、中央学院大学が8名、早稲田大学は7名着用とユニフォームスポンサーとして選手との良好な関係性を感じる結果でしたし、ナイキロゴをユニフォームに着用している駒澤大学が半分の5名がアシックスを着用するなど確実にシェアを伸ばしていることは確かですね。


■プーマは今年も存在感も、100回大会参入組は明暗

昨年あっと驚く二桁の20足のランナーが着用したプーマは、躍進25足で11.9%の4番目のシェアとなり、城西大学が7名、立教大学5名とユニフォームスポンサーの2校で着用数が目立ちました。

モデルとしてはDEVIATE NITRO ELITE 3(ディヴィエイト ニトロ エリート 3)がそのほとんどの22足を占めて、そのほとんどがEKIDEN グローカラー、そして、残りはFAST-R NITRO ELITE 2(ファスト アール ニトロ エリート 2)が2足とこの2種類のみの着用でした。

今年の箱根駅伝でもトップ3シェアのブランドを追い上げる存在感がありましたね。

また100回大会参入組はシューズ着用数などで明暗が分かれました。


オンは、足数こそ昨年同様の3名も、7区駒澤大学の佐藤選手が区間新で区間賞を獲得、発売モデルのCloudboom Strike(クラウドブーム ストライク)も目立ちましたし、9区を走った創価大学の吉田凌選手は、スプレーしてアッパーを作成するシューレースなしの次世代モデルCloudboom Strike LSを披露するなど今大会でも話題面も十分アピールした印象です。

また、昨年参入したブルックスは今年もしっかり1足着用をキープ、ニューバランスもミズノも1足着用者を確保しましたが、同じく昨年参入組でもホカとアンダーアーマーは今年の箱根駅伝では着用者がいませんでした。

箱根駅伝に先立って年末に行われた富士山女子駅伝、こちらではこの両ブランドは着用者がいましたが、男子チームへのアプローチや商品訴求は、これだけ難しいということです。

まさに明暗が分かれた101回箱根駅伝でしたね。


■箱根駅伝は機能性の高さをアピールする場

とにかく、トップランナーが履くレースデイシューズもこの10年で大きく様変わりしました。

2021年の着用率95.7%のようなナイキ一色の状態から、今年の箱根駅伝ではついにアディダスがトップに入れ替ったわけですが、この期間でブランドの間の機能性に大きな差はなくなっていって、そのプロセスからADIOS PRO EVO 1のような、革新的なシューズが生まれました。そして、それが今回多く選手の評価を受けたわけですね。

ただ、そこには確固たる選手の実績という背景があることが重要なピースになっていることがポイントです。

機能性と各社自信を持って作成されたスーパーシューズ、しかし、それだけでは選手の信頼感を簡単に得られるわけではありません。そこは「着用した選手が活躍している」という納得できる実績が必要です。そして世界中で選手が活躍する姿をみれば、SNSでつながる世界、プロダクトに吸い付けられるように選手は集まってくれるわけです。

その結果が、今回のようなアディダスのトップシェアにつながったように思います。

さて、話が早いですが、来年の箱根駅伝ではまたアディダスがトップかもしれません。ただ、圧倒的なのかと言えば、来年も接戦、良い意味で切磋琢磨がある健全な競争が続く状況かと思います。これから出てくるプロダクトを含めて、もっと面白くなってきますよ。引き続き足元にも注目して行きたいですね。
 


<著者プロフィール>

ランニングシューズフィッティングアドバイザー

藤原岳久(FS☆RUNNING(旧 藤原商会)代表)


日本フットウエア技術協会理事

JAFTスポーツシューフィッターBasic/Advance/Master講座講師

足と靴の健康協議会シューフィッター保持


・ハーフ1時間9分52秒(1993)

・フルマラソン2時間34分28秒(2018年別府大分毎日マラソン)

・富士登山競走5合目の部 準優勝(2005)

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