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baseball2018.10.17

鈴木尚広(元巨人)インタビュー、一人ひとりが主人公になれる。盗塁でヒーローになった男に訊く、野球の醍醐味【後編】

[前編: "代走のスペシャリスト"として「自分らしさ」を貫き通す。プロの世界を生き抜く極意 はこちら]

現役時代は主に「代走のスペシャリスト」として活躍した、元読売ジャイアンツの鈴木尚広氏。代走での最多通算盗塁数(132盗塁)や、2018年6月に北海道日本ハムファイターズの西川遥輝外野手にトップの座を明け渡したが、200盗塁以上の選手では歴代2位となる通算盗塁成功率(.829)を記録するなど、その“足”で数々の大記録を残してきた。

インタビュー後編となる今回は、その盗塁における極意や野球用品へのこだわり、そして野球の魅力を存分に語ってもらった。

■必要なのは、考えるのではなく感じること。“足”を極めた鈴木尚広が教える「盗塁のコツ」

ー鈴木さんは現役時代、「代走のスペシャリスト」として活躍されましたが、盗塁の際はどういった部分を重要視されていたのでしょうか?

鈴木:まず、僕の場合は代走という一瞬の勝負の中で戦わないといけなかったので、決めたい時に決められる選手になりたかったんですね。

代走っていう緊迫した場面でなかなかスタートが切れないとか、一発勝負というプレッシャーがかかってくる中で、当たり前のように成功する。これだけを自分のベースとして根付かせていました。成功するのはごくごく自然のことだっていうように。

なので、とにかくいいスタートさえ切れれば自分のものになる。これだけしか考えていませんでしたね。

ー確かに試合を見ていても、鈴木さんが代走として出場したら「絶対に決めてくれる」という雰囲気が会場から感じられました。

鈴木:よくそういう風に言っていただきます(笑)。でも実際、一流の世界にいけばいくほど絶対ってないんですよね。

"絶対的エース”と呼ばれる投手でも打たれる時はありますし、いくら凄い打者でも1シーズンで3割しか打てないわけですから。

でも、絶対に失敗できない場面で盗塁を決め続けることができたというところは、自分の誇りですね。

それは自分の仕事に責任を持ち、コーチや監督、ファンの期待に応えるために盗塁を突き詰めた結果だと思っています。

生意気な言い方ですけど、「決めて当然だ」という意識は常に持っていましたね。

ーやはり自分のプレーに自信を持てないと、あれだけ盗塁を成功させることはできませんよね。実際にセカンドベースを狙う時にはどういったことを考えていたんですか?

鈴木:考えるというか、逆に何も考えないようにしていました。

考える時間がないといったら変ですけど、考える作業をしなくてもいいように、完璧な準備を試合前にしておくんです。

僕の場合、相手投手の情報は全て頭の中に入っているので、考える必要がなかったんですよ。

大事なのは、考えるのではなく感じることです。その間合いだったり、空気感というものを感じて、その一瞬の駆け引きの中で判断してスタートを切る。僕は盗塁の成功率を上げるための作業を試合前からやっているので、ファーストベースに行った時、逆に何も考えない状態を作れるかどうかが重要だと思っています。

なので、走れないランナーっていうのは、頭で考えてしまうからなかなかスタートを切れないんです。考えるんじゃなくて感じていかないと、盗塁で勝負するのは難しいですね。

■モノを大事にしないと、いい選手にはなれない。イチローの“バット愛”から感じたプロの流儀

インタビューを受ける鈴木

ーここからは野球用品についてお話を伺いたいのですが、現役時代はどこのメーカーを使用していたんですか?

鈴木:僕はアディダスさんの野球用品を使わせていただいていました。

ーでは、鈴木さんのこだわりを教えてください。

鈴木:こだわりというか、使ってみて自分の体とその道具が一体化するかどうか、そこを重要視していましたね。

モノには感情も何もないですけど、例えばグラブに手を入れることによって感覚が生まれますよね。その感覚が、自分にとってしっくりくるものかどうかを感じるんです。それはグラブをはめた瞬間にすぐ分かりますね。

同じ種類のグラブを作ってもらったとしても、それまで使っていたモノと比べたら感覚がズレることもあるので、そこはしっかり見極めるように意識していました。

ーなるほど。走塁・盗塁でも重要なスパイクに関してはいかがでしょう?

鈴木:スパイクなら「フィット感」ですね。

みなさん、スパイクは軽ければ軽いほどいいと思いがちなんですけど、それだと逆に足の回転が速くなりすぎて、上半身と下半身の連動がうまくいかなくなるんですよ。

一時期、軽さを重視してスパイクを作ってもらっていたんですけど、「なんかちょっと違うなぁ…」っていうのがあって。

それである時、フィット感を重視したスパイクに変えてみたところ、「自分でしっかり履けてる」という感覚を得られたんです。そこから盗塁もうまくいくようになったので、それに気づいた30代以降はフィット感を重視してスパイクをオーダーしていました。

なので履いた瞬間に「ダメだな」と思ったら、絶対に使いませんでしたね。自分に合ったスパイクを長く使い続ける、というスタンスを貫いていました。

長く使うという意味では、モノを大事にする、ということもこだわっていた部分ではありますね。

ーやはり、いい選手はモノを大事にされていますよね。

鈴木:そうですね。これはイチローさんの話なんですけど、バットは特注のジュラルミンケースで運んでいて、湿気を吸うとバットの重さが変わってしまうので、必ず乾燥剤を入れていたそうなんです。

あれだけのスーパースターが、いつでもバットを綺麗に、そして大切にされている。だったら若い選手はみんな、そのこだわりを見習うべきですよね。

そのイチローさんの話を聞いた時、やっぱり使う人によってその思いや魂がやどり、使用者と一体化して一緒に戦ってくれるんだなと、そう思いました。

だから僕も野球教室で指導する際には、まず一人ひとり足元から見て、そこから注意するようにしています。親に買ってもらえることが当たり前だと思ってほしくないので。

グラブやバット、スパイクがないと練習も試合もできませんし、何より一緒にプレーしているわけですから。モノを大事にするという気持ちは常に持ってほしいなと思いながら、子供たちには教えるようにしています。

■必ずチャンスが与えられ、自分を表現できる。鈴木尚広が思う「野球の醍醐味」

インタビューを受ける鈴木

ーありがとうございます。最後に、これから野球を始めようと考えている方に向けてメッセージをお願いします。

鈴木:はい。野球って非常に面白くて、チームスポーツであり、個のスポーツでもあるので、ぜひ一度やってみてほしいです。

形としてはチームとして戦うんですが、実際に対決する時って、投手vs打者、投手vs走者というように個と個の対決になりますよね。つまり、自分を表現する場が必ずあるわけですよ。

ビジネス社会だと、会社に行ったらなかなか自分の意見が言えなかったりして、個性を発揮するのって難しいじゃないですか。

でも野球だと、一人ひとりにチャンスを与えられて、自分の力で勝負できる局面が必ずある。打者の場合、スタメンで出たら3〜4打席は立てますし、チャンスの場面で回ってくる可能性だってあります。

打順は1番〜9番までありますけど、べつにクリーンナップだけにチャンスが回ってくるわけでもないですから。

ーそこで打てばヒーローになれますよね!

鈴木:そうなんです!チャンスで打てばヒーローになれますし、打てなくても守備でファインプレーをすればヒーローになれる。一人ひとりが主人公になれるんです。

誰しもが平等にチャンスを与えられるという部分が、野球の醍醐味でもあると思うんですよね。

それに野球は、どんな物語よりもドラマチックです。野球って生き物なので、試合の中には流れがあって、ドラマがあって、一瞬の隙も許さない展開が詰まっている。それを試合を終えて、みんなで食事をする際に「あの時こうだったよね」とか「あのプレーすごかったな」って語り合えるのも野球の魅力だと思うんです。

ピッチャー目線とかキャッチャー目線、ランナー目線や守備目線など、いろんな角度から意見を交換できるんですね。それで次の試合に向けて作戦を練る。個人の勝負ではあるけれども、チーム全体で考えるというのも、これまた面白いんです。

なので、これから野球をやられる方には、どのポジションをやるにしても、一瞬一瞬のプレーを楽しんでほしい。そして、試合で感じたその楽しさや喜びを、たくさん仲間と共有してほしいとなと、そう思います。

[前編: "代走のスペシャリスト"として「自分らしさ」を貫き通す。プロの世界を生き抜く極意 はこちら]

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